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70)地球温暖化は食物中のドコサヘキサンエン酸(DHA)の量を減らす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術70

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【地球温暖化はがんや循環器疾患やうつ病を増やす】

 「風が吹けば桶屋が儲かる」ということばがあります。一見,関係のないところに因果関係があることを示す言葉です。
 
風が吹けば砂が舞い上がり、砂が目に入って目が悪くなる人が増え、そのため三味線弾きで生計を立てる人が増え、三味線が売れる。三味線には猫の皮が必要だから猫が捕られ、それによってネズミが増え、桶がかじられる。したがって、「風が吹けば桶屋がもうかる」という理屈です。
 

温暖化を含めて地球の気候変動が、人間の病気に様々な影響を及ぼすであろうことは、誰でも予想がつきます。気温が上がれば熱中症が増えるという直接的な因果関係の病気もあります。

間接的にも病気の発生に大きく影響します。「地球温暖化は食物中のオメガ3系多価不飽和脂肪酸の量を減らし、その結果、がんや循環器疾患やうつ病など多くの病気を増やす」という意見があります。以下のような報告があります。

Omega-3: A Link between Global Climate Change and Human Health.(オメガ3:地球規模の気候変動と人間の健康の間のリンク)Biotechnol Adv. 2011 JUL-AUG; 29(4): 388–390.

【要旨の抜粋】
近年、地球規模の気候変動は、海洋生態系を含む多くの生物学的および環境的要因に悪影響を与えることが示されている。特に、地球規模の気候変動は、大気中の二酸化炭素、紫外線照射、および海水温の上昇に関連しており、その結果、海洋植物プランクトンの成長が低下し、オメガ3多価不飽和脂肪酸の合成が低下する。
海洋植物プランクトンは、正常な人間の成長と発達に不​​可欠な栄養素であり、人間の健康に多くの有益な効果をもたらすオメガ3多価不飽和脂肪酸の主要な生産者である。
したがって、気候変動が海洋に及ぼすこれらの有害な影響は、私たちの食事におけるオメガ3多価不飽和脂肪酸の利用可能性を低下させ、オメガ3多価不飽和脂肪酸の現代的な欠乏と、組織のオメガ6/オメガ3不飽和脂肪酸の比の不均衡を悪化させる可能性がある。これらは、心血管疾患、がん、糖尿病、および神経変性疾患のリスクの増加に関連している。
 
 
魚に含まれるエイコサペンタエン酸(EPA)やドコサヘキサエン酸(DHA)は魚の体内で合成されているのではありません。EPAとDHAを作っているのは微細藻類です。動物プランクトンが微細藻類を食べ、小型魚がプランクトンを食べ、大型魚が小型魚を食べるという食物連鎖によって、サバやサンマやカツオやマグロなどの魚油にEPAやDHAが蓄積しています。人間はこれらの魚を食べることによってEPAやDHAを摂取しています。
 
「気候変動がDHAとEPAを産性する微細藻類の発育を阻害し、その結果、人間がDHA/EPA不足になり、心血管疾患、がん、糖尿病、神経変性疾患などの病気が増える」という理屈は「風が吹けば桶屋が儲かる」的な論理構成のような印象もあります。

しかし、この論文の著者はマサチューセッツ総合病院とハーバード大学医学部の脂質医学技術研究所(Laboratory for Lipid Medicine and Technology)の所長のJing X Kang博士です。Kang博士は遺伝子改変技術でDHAを合成できるマウスの作成など、オメガ3不飽和脂肪酸の研究では極めて著名な研究者です。
 
地球規模の気候変動の影響は、世界的な気温の変化と、メタンや二酸化炭素などの大気中の温室効果ガスの増加にすでに現れています。温室効果ガスの増加は成層圏のオゾン層の破壊を悪化させ、さらなる紫外線照射を促進しています。このような変化はDHAやEPAを産生する微細藻類の減少を引き起こし、人間にこれらのオメガ3多価不飽和脂肪酸の欠乏が起こると、心血管疾患、がん、糖尿病、神経変性疾患など多くの疾患を増やすという理屈です。

図:オメガ3多価不飽和脂肪酸が地球の気候変動と人間の健康にどのように関係しているかを示すフローチャート。地球規模の気候変動によって気温上昇、二酸化炭素の増加、紫外線照射の増加が起こっている(①)。これらの変化はオメガ3多価不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)とエイコサペンタエン酸(EPA)の産生源である微細藻類の増殖を減少し、DHA/EPAの産性能を低下する(②)。食物連鎖によって魚に蓄積するDHAとEPAが減少し(③)、食物からのDHA/EPAの摂取量が減少し、オメガ6/オメガ3比が上昇する(④)。その結果、がん、循環器疾患、糖尿病、認知症、うつ病などの病気が増加する(⑤)。つまり、地球規模の気候変動がこれらの疾患を増やすことになる。


【気候温暖化はDHA/EPAを減らす】

 以下のような論文もあります。カナダのライアソン大学(Ryerson University)の生物化学部(Department of Chemistry and Biology)からの報告です。

Climate warming is predicted to reduce omega-3, long-chain, polyunsaturated fatty acid production in phytoplankton(気候温暖化は、植物プランクトンにおけるオメガ-3、長鎖多価不飽和脂肪酸の生産を減少させると予測されている)Glob Chang Biol. 2016 Aug;22(8):2744-55. 


【要旨】
植物プランクトンは、水界生態系における主要なエネルギー源であり、オメガ3長鎖不飽和脂肪酸の供給源である。植物プランクトンの成長と生化学的組成は、気候温暖化の結果として上昇し続ける温度など周囲の環境条件の影響を受ける。
水温の上昇は、細胞膜の流動性の向上性維持の観点から植物プランクトンによるオメガ3長鎖不飽和脂肪酸の生産を低下させる可能性がある。これを調査するために、海洋および淡水植物プランクトンの6つの主要なグループからの952種の脂肪酸プロファイルを使用して調査を実施した。
温度は、オメガ3長鎖多価不飽和脂肪酸の割合の減少、およびオメガ-6多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の増加と強く相関していた。線形回帰モデルに基づいて、水温が2.5°C上昇すると、世界的な生産量がエイコサペンタエン酸(EPA)で8.2%、ドコサヘキサエン酸(DHA)で27.8%減少すると予測された。
世界のEPA供給の大部分に寄与する珪藻によるEPAの世界的な生産量の以前に発表された推定値を使用して、海洋温暖化の結果として毎年14.2Mt(1420万トン)のEPAの損失を予測する。
オメガ3多価不飽和脂肪酸は、主に植物プランクトンによって生成され、水生および陸生生物の一連の重要な生理学的機能にとって極めて重要な栄養素である。したがって、気候温暖化の結果としてのこれらのオメガ3不飽和脂肪酸の生産の減少は、最適な生理学的機能のためにこれらの化合物に依存する生物種に悪影響を与えると予測される。
 
 

この論文もKang博士の論文と同様に、地球の温暖化が微細藻類によるDHAとEPAの産生を低下させるという指摘です。さらに、オメガ6多価不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸の増加も指摘しています。つまり、オメガ6/オメガ3比を増やすので、人間の健康に悪影響を及ぼすことを指摘しています。
 
人間の食事におけるオメガ3多価不飽和脂肪酸の主な供給源は水産物です。具体的には、海洋植物プランクトンやその他の単細胞藻類がオメガ3多価不飽和脂肪酸、特にEPAとDHAの主な生産者であり、すべての水生生物の食物連鎖の基盤となっています。人間は、この食物連鎖の複数のレベルを通じてオメガ3 多価不飽和脂肪酸を取得します。

植物由来の亜麻仁油と紫蘇油(えごま油)は、別のオメガ3多価不飽和脂肪酸のα-リノレン酸の優れた供給源ですが、α-リノレン酸からEPAおよびDHAへの代謝変換が非常に低いため(<5%)、植物からDHAとEPAの需要を満たすには不十分です。これらの3種類のオメガ3 多価不飽和脂肪酸は、EPAとDHAがより有益であるという明確な生物学的機能を持っているためです。
 
したがって、海洋植物プランクトンは、比較的大量のEPAとDHAの脂肪酸組成のために、私たちの食事における重要なオメガ3多価不飽和脂肪酸の利用可能性を維持する上で特に価値があります。ただし、植物プランクトンは気候や環境の変化に対して非常に脆弱です。
 

地球規模の気候変動による自然界におけるDHA/EPAの産生はすでに減少が進んでいるようです。ここ数十年間で野菜の栄養価が低下しているという指摘があります。同様に海産物のDHA/EPA含有量も減っていくと予想されます。サプリメントでDHA/EPAを補充する意味も最近は増していると思います。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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