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45)なぜ肥満が増えているのか

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術45

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【肥満の流行は最近の出来事】

 太古の昔から個人レベルでは肥満の人は何人もいましたが、人口の多くが肥満になる「肥満の流行」という事態が発生したのは、過去40年間くらいの出来事です。近年、肥満の有病率は驚くべき速度で上昇し続けています。

世界保健機関(WHO)の2014年の試算では、全世界で18歳以上の成人のうち、過体重(BMIが25.0〜29.9)が39%(19億人)、肥満(BMIが30.0以上)が13%(6億人)となっています。BMIはBody Mass Indexの略(日本語ではボディマス指数)で、体重(kg)÷身長(m)÷身長(m)で求められます。肥満度の指標として使用されます。

米国の人口の3分の1が肥満(BMIが30以上)、3分の1が過体重(BMIが25~30)です。米国ではこの30年間で肥満(BMIが30以上)は2倍以上、小児の肥満や成人の高度の肥満(BMIが35以上)は3倍になっています。

イギリスの成人の26.1%はすでに肥満であり、成人男性の60%、成人女性の50%、および子供の25%が2050年までに臨床的に肥満になると予測されています。

個人的および社会経済的観点からの肥満のコストは莫大です。肥満は2型糖尿病の強力な危険因子です。さらに、心臓病、脳卒中、変形性関節症、睡眠時無呼吸、痛風、がんなどの多くの病気のリスクを高めます。

したがって、肥満を減らすことが、人類における健康増進と医療費抑制の重要な課題になっています。


【日本人は欧米人に比べて肥満になりにくい】

 日本ではBMIが30以上は人口の3%程度で、日本肥満学会では、BMI25以上を肥満にしていますが、米国ではBMI25以上はオーバーウェイト(overweight:過体重)で30以上を肥満にしています。日本と同じ基準にすると米国の人口の70%が肥満に分類されてしまいます。

日本人は欧米人に比べて肥満になりにくいと言われています。その理由として、「日本人はインスリンの分泌能が欧米人に比べて少ないため」と言われています。

穀物の栽培は約1万2千年前に中東地域(チグリス川とユーフラテス川で挟まれた地域)において始まり、すぐにヨーロッパに広がりました。すなわちヨーロッパに住む人間は穀物の多い食事に変わってから1万年くらいが経過しています。
 

一方、日本において農耕が本格的に行われるようになったのは稲作が伝来した弥生時代に入ってからで、今から3000年から3500年くらい前と言われています。

農耕が始まるまでは、人類は狩猟採取社会で、糖質の少ない食事でした。農耕が始まり糖質の摂取量が多くなってインスリンの分泌を増やすように体が適応(進化)していますが、日本人は欧米人に比べて糖質の多い食事になってからの期間が3分の1以下なので、インスリン分泌能がまだ十分に高くなっていません。日本人のインスリンの分泌能は欧米人に比べて半分程度と言われています。

インスリンは血糖を下げる作用と脂肪合成を促進する作用があります。インスリンの分泌能が高い欧米人は糖質摂取によって肥満になりやすい体質を持っていますが、糖尿病は発症しにくい体質です。欧米人は著明な肥満にならないと糖尿病は発症しません。
 

一方、インスリン分泌能の低い日本人は、高糖質食でも肥満になりにくい代わりに糖尿病になりやすい体質を持っています。実際に、日本人は欧米人に比べると肥満は非常に少ないのですが、糖質摂取量が増えて糖尿病が増えています。
 

このような欧米人と日本人のインスリン分泌能の違いは、食事に糖質が増えてからの時間の長さが関連しています。糖質摂取が増えてインスリンの産生とインスリン感受性を高めるように人類は進化している途中にあり、糖質摂取が増えてからの期間の長さによって適応の度合いが違うということです。


【人類は氷河期にインスリン抵抗性が進化した】

 44話で解説したように、氷河期に入ってから人類は肉食が中心になり、低糖質の食事に適応するように進化していきます。具体的には、脳へのグルコース(ブドウ糖)の供給を減らさないように、骨格筋や脂肪組織へのグルコースの取込みを低下させることや、タンパク質や脂肪から肝臓でグルコースを作る糖新生の能力を高めることです。
 

インスリンは骨格筋と脂肪組織におけるグルコースの取込みを促進し、肝臓での糖新生を抑制することによって血糖を低下させます。つまり、低糖質の食事になって、人類はインスリンの働きを低下させることが生存に有利になるため、インスリンの効き目を弱めるように進化しました。
 

インスリンの働きが低下することを「インスリン抵抗性」と言います。つまり、インスリン抵抗性の形質を獲得することによって低糖質の食事に適応していったのです。  

糖質を十分に摂取できない時期にはインスリン抵抗性は生存に有利でした。しかし、農耕が始まって糖質の多い食事になり、近代になって精製した糖が過剰に摂取されるようになると、インスリンが効きにくい体質(インスリン抵抗性)は不利に働くようになって、肥満やメタボリック症候群やがんが増える結果になったというように考えられています。


【人類は糖質で太りやすい体質を持っている】

 インスリンは様々な作用を持っていますが、最も重要な作用は血糖を下げることです。この血糖降下作用においてインスリンの標的になる組織が骨格筋と脂肪組織と肝臓です。
 

グルコースは細胞膜にあるグルコース・トランスポーター(グルコース輸送担体)を使って細胞膜を通過します。グルコース・トランスポーターには幾つかの種類があり、組織の違いなどによって種類の異なるトランスポーターが使われます。脂肪細胞と筋肉細胞(骨格筋と心筋)ではインスリン感受性のグルコース・トランスポーター4(GLUT4)が使われます。
 

GLUT4は細胞内に貯蔵されていて、インスリンが細胞に作用するとGLUT4が細胞膜上へと浮上してグルコースを取り込みます。つまり、インスリン依存性のグルコース・トランスポーターで、血糖が高くなると膵臓からインスリンが分泌され、骨格筋と脂肪組織のGLUT4が細胞膜に輸送されてグルコースの取込みが増えるという仕組みです。
 

肝臓ではアミノ酸やグリセロールや乳酸などからグルコースを合成できます。これを糖新生と言います。インスリンはこの糖新生を抑制する作用があります。つまりインスリンは、骨格筋と脂肪組織でのグルコースの取込みを増やし、肝臓での糖新生を抑制することによって血糖を下げる作用を発揮するのです。肝臓でのインスリンの働きを弱めることは糖新生を増やすことになります。
 

さて、進化の系統樹でオランウータンと分岐する1300万年以上前から初期人類の時期を含めて、現生人類の祖先は長く森林に生息し糖質が主体の食事を行っていました。そのため、エネルギー産生も脳の働きもグルコースを中心とした代謝系に依存してきました。それが氷河期に入って糖質摂取が減少したことに適応するために人類はインスリン抵抗性の体質を獲得するようになったのです。
 

脳はエネルギー消費量が多く、安静時で全身が消費するエネルギーの20%以上が脳で消費されます。脳組織でのグルコースの取込みはインスリンの作用が不要なGLUT3で行われます。糖質摂取が少ない状況でインスリンが作用して血糖が骨格筋と脂肪細胞に多く取込まれると脳へ行くグルコースの量が減ります。
 

脳へのグルコースを確保するため、骨格筋と脂肪細胞でのグルコースの取込みを制限するためにインスリン抵抗性が高い方が生存に有利に働くということです。
 

また、胎児は大きく生まれる方が出生後の生存に有利です。したがって、妊娠時はより多くのグルコースを胎児に送るためにもインスリン抵抗性は有利になります。
 

インスリンは食事から吸収されたグルコースを血中から早く消失させる作用がありますが、食事からの糖質摂取量が少ない状況では、血中からグルコースが早く無くなると脳の働きや胎児の発育に支障をきたすのです。少ない血糖を脳や胎児に多く確保するためにインスリン抵抗性の性質を持つ方が生存に有利になるというわけです。
 

このように、糖質の摂取量が減少したことに適応するため、人類はインスリン抵抗性を獲得したと考えられています。

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図:インスリンは標的組織の筋肉細胞と脂肪細胞のグルコーストランスポーター4(GLUT4)の細胞膜輸送を促進して、筋肉細胞と脂肪細胞へのグルコースの取込みを亢進する。さらに、肝細胞に対してはインスリンは糖新生を抑制する。この作用によって食事から摂取したグルコースは血中から速やかに減少する。脳や胎児のグルコーストランスポーターはインスリン非依存性であり発現量はインスリンによって増えない。そのため、低糖質食になってグルコースの摂取量が減ると、脳の働きや胎児の発育が低下する。低糖質食でも血中のグルコースの量を確保し、脳や胎児に十分なグルコースを供給するために、筋肉細胞や脂肪細胞や肝細胞でのインスリンの働きを低下させる方が生存に有利になる。このため、人類が肉食中心で低糖質食を行っているときにインスリン抵抗性が進化した。


【糖質摂取が増えるとインスリン抵抗性が肥満や糖尿病を引き起こす】

 氷河期に糖質を多く含む植物性食物の入手が困難になったために、人類はインスリン抵抗性を獲得したという仮説は「肉食関連仮説(Carnivor Connection Hypothesis)」と呼ばれ、オーストラリアのブランド・ミラー(Jennie Brand-Miller)博士らが1994年に提唱した仮説です。

インスリン抵抗性というのは骨格筋や脂肪組織でのグルコースの取込みと利用を低下させることです。脳や妊娠中の胎児へグルコースの供給を維持する必要があるために、人類は氷河期の間の低糖質食に適応するために、インスリンの効き目を悪くするように進化したと言う仮説です。

人類は狩猟採集時代に低糖質食に適応するためにインスリンの効き目を弱めるように進化したのですが、農耕が始まって糖質摂取量が増え、さらに近年はグリセミック指数の高い食事が増えています。
 

その結果、インスリンの効き目が弱い遺伝形質(インスリン抵抗性)を持っている人類に肥満と2型糖尿病が増えるようになったと説明できます(下図)。

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図:人類の祖先の類猿人から初期人類にかけての数百万年間は主に森林に生息して木の葉や果実などの植物性食糧が主体であったため、栄養素としては糖質が主体であった。250万年くらい前から氷河期に入ると森林が縮小し人類は狩猟採集によって食糧を得るようになり、動物性の食事が主体になって糖質摂取量は減っていった。約1万年前に最後の氷河期が終わると農耕や牧畜が行われるようになり、人類は再び糖質の多い食事に戻った。産業革命後(19世紀以降)は精製した糖質の摂取が増え、さらに1970年代以降は砂糖や異性化糖などの単純糖質の摂取量が増加した。狩猟採集時代に人類は低糖質食に適応するため、インスリン抵抗性の形質が進化した。つまり、人類はインスリンが効きにくい体質を持っているため、近年における単純糖質の摂取過多が肥満や糖尿病やメタボリック症候群やがんを増やす結果となっている。


最近まで狩猟採集を行っていた地域に糖質の多い西洋的な食事が導入されると、急速に2型糖尿病が増えることが知られています。例えば、米国アリゾナ州のピマ・インディアンやオーストラリア先住民のアボリジニや南太平洋のナウル共和国の住民は肥満や2型糖尿病が極めて多いことが知られています。

これらの住民は昔から肥満や2型糖尿病が多かったわけではなく、農耕が行われずに狩猟採集で最近まで暮らしてきたところに、西洋文化が導入されてグリセミック指数の高い糖質の多い食事をするようになったからです。つまり、糖質の多い食事に遺伝的に適応できていなかったことが原因になっています。

このように狩猟採集を行っている民族が、西洋的な食事や生活習慣を取り入れると、すぐに肥満や糖尿病や動脈硬化が増えることが多くの例で確かめられています。逆に、肥満した人を一時的に狩猟採集時代のような食生活を生活環境で生活させると数週間で2型糖尿病が治るという報告もあります。


【人類はインスリン抵抗性以外にも太りやすい理由がある】

 人類氷河期の狩猟採集時代にインスリン抵抗性を獲得したという考えは「肉食関連仮説(Carnivor Connection Hypothesis)」と呼ばれ、オーストラリアのブランド・ミラー(Jennie Brand-Miller)博士らが1994年に提唱した仮説です。

人間が肥満や2型糖尿病になりやすい理由を説明する仮説が他にも幾つもあります。
その一つに「倹約遺伝子仮説(Thrifty Gene Hypothesis)」があります。狩猟採集では食物が規則的に獲得できるという保証はありません。季節的に食糧が入手できない太古の環境では、食事摂取できるときに体内にエネルギーを溜め込むために必要ないわゆる倹約遺伝子と呼ばれる遺伝子が進化の過程で人類の遺伝子プールの中に広がったという考えです。基礎代謝量を少なくしたり、脂肪の蓄積を促進するような遺伝子が倹約遺伝子の候補になっています。
 

食物が足りないときには、少ないエネルギー消費量で生き残れる倹約遺伝子型を持っている人が有利です。しかし食物が豊富になると倹約遺伝子型を持っている人は肥満や糖尿病になりやすいと考えられます。この仮説は1962年に米国のニール(James V Neel)博士によって提唱されています。

その他、英国の生物学者スピークマン(John Speakman)博士の提唱している「捕食者解放仮説(Predation Release Hypothesis)」という理論もあります。

動物はより大きい肉食動物からの捕食を避けるために肥満になりやすい形質は淘汰されるという考えがあります。肥満した動物は逃げるのも遅く、かつ捕食者にとっては太っているほど獲物として魅力があります。つまり肥満は動物にとって生存しにくい形質であるため、肥満になりやすい遺伝子型は生物界の遺伝子プールには広がりにくいと考えられます。

しかし人類は火や道具を使うようになり、知能が発達して捕食者に対する防御も容易になりました。100万年くらい前に人類は捕食者からの脅威を逃れることができるようになり、捕食者からの危険が無くなったので、体重を制限するという進化上の選択圧が無くなったので、肥満になることを許す遺伝子が人類の遺伝子プールの中に広がったという仮説です。
 

肥満者は捕食者の餌食になりやすいので、肥満になりやすい遺伝形質は進化上淘汰されますが、人類の知能が進化して捕食者の脅威がなくなればそのような選択圧は不要になるということです。

このように、現代社会で肥満や2型糖尿病が増えている理由を説明するためにいろんな仮説が提唱されていますが、恐らくこれらの理由が複合的に作用して人類は太りやすい体質を持っていると考えられます。
 

食糧が豊富になり、体を動かさない生活が増えた現代において、このような太りやすい体質が肥満や2型糖尿病を増やす原因になっていると考えられます。


【食事中のタンパク質含量が減ると食事の量が増える】

 肥満の原因を議論するとき、多くの研究者は炭水化物(糖質)と脂肪の摂取量を重視しています。タンパク質に関しては、全摂取エネルギーのせいぜい15%程度をタンパク質から摂取しているに過ぎないというという事実と、肥満が流行するようになってもタンパク質の摂取量は変化がないからです。

しかし、タンパク質の摂取量が少し減っただけで、てこの原理のように人間の摂食行動に大きな影響を及ぼすことが示されています。すなわち、食事中のタンパク質の量が減ると、食事の量が増えるという関係です。
 

低タンパク食では食事の摂取量が増えるという現象は、昆虫、魚、鳥、齧歯類、霊長類、人間と多くの生き物で確認されています。

脂肪や糖質は主に体を動かすエネルギー源となりますが、タンパク質は筋肉や内臓や血液などの細胞を作り、生命活動に必要な酵素やホルモンや増殖因子などを作っています。タンパク質は細胞の中や血管内に存在することで細胞内や体内の浸透圧を保っています。浸透圧が一定に保たれていないと、水分やミネラルが勝手によそに移動してしまい、生命を維持することができません。
 

このようにタンパク質は生命の維持と体内の代謝を円滑に行うためになくてはならない栄養素であるため「生命の源」と呼ばれます。つまり、生き物にとって、栄養素の中で糖質や脂肪よりタンパク質の方が重要なのです。

タンパク質が摂取できなくなると、ショウジョウバエは交尾を先延ばしにし、こおろぎは共食いを初め、人間は過食になると言われています。

「多くの生物は体に必要な量のタンパク質を獲得するまで食事の摂取量を増やす」という理論は英国のオックスフォード大学のシンプソン博士(Stephen Simpson)とルーベンハイマー博士(David Raubenheimer)が2005年に「Protein leverage hypothesis」という名称で報告しています。
 

「protein」は「タンパク質」、「leverage」は「てこ」、「hypothesis」は「仮説」という意味です。直訳すると「タンパク質てこ仮説」になります。なぜleverage(てこ)なのかと言うと、食事中のタンパク質の量がほんのわずかに変化するだけで、てこの原理のように食事摂取量が大きく変わるからです。

例えば、体重70kgの体重の男性にとって必要なカロリーが2400キロカロリーで15%(360キロカロリー)をタンパク質から摂取していたとすると、残りの85%(2040カロリー)が糖質と脂肪から摂取することになります。360キロカロリーのタンパク質は90グラムです(タンパク質1gが4キロカロリー)。

食事中のタンパク質の含量が13%に減ると、90g(=360キロカロリー)のタンパク質を摂取するには、摂取カロリーは360÷0.13=2769キロカロリーになります。つまり、食事に含まれるタンパク質の量が15%から13%に減ると、同じ90gのタンパク質を摂取するために、369キロカロリーも増えるということです。これは毎日体脂肪が40gづつ増えることになります。

実際に米国では、食品中のタンパク質の濃度が平均14~15%から最近は12.5%に減少しており、これが米国において摂取カロリーが増えた原因だという意見があります。

タンパク質は体を作るものとして体はより要求度が高いので、糖質が増えてタンパク質の含量が減れば、それだけ多くの食事を食べなければなりません。体にとってはカロリー過剰になって肥満になって不健康になるリスクより、タンパク質が不足する方が重大事だということです。摂食量が増えれば、摂取カロリーも増えて肥満になることになります。

食事中のタンパクの含有量が1.5%低下すると、摂取カロリーが14%上昇するという計算がなされています。つまり、食事中のタンパク含量がほんのわずか変化するだけで、摂取カロリーが大きく変化するというのが「タンパク質てこ仮説」です。

この仮説は人間での臨床試験で実証されています。また、高タンパク食が減量効果や肥満予防効果が高いことが明らかになっています。


【肥満は流行する】

 前述のように、米国では「肥満の流行(Obesity Epidemic)」と表現されるくらい急速に肥満が増加しています。精製した穀物や、高濃度のフルクトースを添加した高フルクトース・コーンシロップや砂糖のような単純糖質が増えたことが、米国における肥満と糖尿病の増加の元凶だと考えられています。

以前は肉と脂肪の摂取過剰が肥満の原因だと考えられ、1970年代以降は肉と脂肪を減らす食事指導が行われ、実際に脂肪とタンパク質の摂取が減っているのに、肥満が爆発的に増えています。

中国では大量の米が消費され食事中の糖質の割合が多いのが特徴です。体を多く動かすので、農村部の多い中国では今まで肥満はあまり問題になっていませんでしたが、経済成長とともにライフスタイルが変わり、中国の都市部では肥満が増加し、糖尿病も急激に増えています。

欧米人はインスリンの分泌能が高い人種です。その結果、糖質の摂取が増えると肥満を起こしやすい体質を持っています。この遺伝形質だけであれば肥満も糖尿病も起こりません。産業革命以前は穀物は潰したり荒く粉にしたりして調理していたので、食物繊維が豊富で糖質の消化や吸収が遅く、インスリンの分泌も多くありませんでした。

しかし、産業革命後は機械による穀物の精製技術が進歩し、精製した糖質や砂糖の摂取量が増え、インスリンの分泌が増えたために肥満が増えました。
 

高血糖によるインスリン分泌刺激が増えると、膵臓のランゲルハンス島のβ細胞の酸化ストレスが増強し、β細胞がアポトーシスで死滅して数が減っていき、最終的にはインスリン分泌能が極端に低下して糖尿病を発症します。

農耕が始まっても、つい最近までは肥満も糖尿病も例外的なものでした。つまり、食糧が十分に獲得でき、労働で体を動かす必要のない上流階級の病気でした。しかし、近年は肥満と糖尿病はごく普通の病気になりました。

精製した穀物や単純糖質の消費が増え、機械の発達によって労力を使わなくなり、暖房や衣服の発達によって寒い気候でも体の熱産生を高める必要がなくなりました。その結果、摂取エネルギーが消費エネルギーを超えるようになり、太りやすい体質を持っている人は簡単に肥満になります。

前述のように人間は肥満になりやすい形質を多数持っています。つまり生活習慣病を起こしやすい遺伝的要因は人類の中に蔓延しています。
 

残念ながらこのような遺伝形質を体から消し去ることはできません。このような遺伝形質が人類の遺伝子プールから消えるには何万年も何十万年もかかります。つまり、遺伝的素因は自分の責任ではどうすることもできません。

したがって、生活習慣病を減らすには環境要因を改善するしかありません。その第一が精製した糖質の摂取を減らすことです。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ

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