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駅を降りる
この街の景色は毎年少しずつ 曇った茶色に変わっていく
昨日降りた駅と景色は近似値だ
きっとどこかの寂れた駅とそっくりなのだろう

待合室は年配の女性が独り 次の列車を待っている
駅前のロータリーにはタクシー乗り場にタクシーが2台
バス乗り場の標識がポツリと風で揺れている
ここは 終わりの入り口
朽ち果てる宿命を背負った
人類の最後の果て
 
かつては ここから少し行くと
プロメテウスの炎が見えた
チョロチョロ しあわせそうに
永遠に燃え続けるはずだった炎

駅前の立ち飲み屋は汗臭い労働者でいつも賑わっていた
人は儚いとは知らず夢を見るのだ
それを誰が責められる?

プロメテウスの炎は10年前の3月11日
突然消えてしまった

駅前を真っ直ぐ歩くと
マスクをした何人かとすれ違った
知っている顔がいるかもしれない
知ってる過去がそこに現れるかもしれない
景色は曇り
街の街灯がポツリポツリつく頃
そんなことはある訳がないと思い至り
駅へ戻った
売店であと一つ残っていたサンドイッチを買い
プラスチックの儚い音を聞きながらフイルムを剥がし 腹に入れ 列車に乗った


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