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手探ぐりで一本の綱を引く 眼をつぶったままで
綱は何処へ繋がっているのだろう

>眼の前で夫の手は宙を舞うんです
 なにか不思議な神々しさがありました その寝たきりの か細い手

揺れ動く不確かさはひとつの階段かもしれない
逆さまの火たちに逆らいつつ

>かろうじて骨に皮膚がついている状態の夫の手は
 電気工事士だった夫の手が手探りで手を上げ

人間には なにかの規律がある
自分の生死よりも重い荷を背負う日常

>何かを引っ張るような動作をし 電線のコイルを巻く動作をし
ドライバーを回し 電線を引っ張る動作をし

封印され続けてきたもの それは「高度」「経済」の裏側
誰にも気づかれないように

>腕のいい電工だった高木一夫 アスベストで悪性中皮腫に罹患した
「もうなにも治療することは出来ません」主治医は宣告した

電気工は天職だったのです わたし 最後まで足や腰をさすってやりました
残された時間をさすってさすってさすって モルヒネでしか癒せない痛みを

いまを形づくるもの 僕らの足元には
宙を舞う見えないドライバーが埋まってはいないか 知られずにずっと

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