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詩 大切なものたち 記憶の中で

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形象化と現実は、少しズレていて、本当の出来事より印象に残ったりします。
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2022年5月の記事一覧

詩)立ち飲み

詩)立ち飲み

立ち飲みである
久しぶりである
独りで野球中継を見ながら まずは生ビール
よく冷えている
まず定番串揚げ5本セットである
冷奴も頼む
ナマ飲みながらもう二杯目なににしようか
考えるのである
生レモンサワー 極上吉乃川 レモンサワー
芋焼酎ハイボール ブラックニッカハイボール
もう目移りしまくるのである
マスターが「15周年で」と 吉乃川雪中貯蔵を振る舞ってくれる 嬉しい
男たちは1人で飲むのである

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詩)残照

詩)残照

白い道がもしあるとしたら
それは 過去の残照だろう

11時前のタリーズには
暗い女が隅にいる
そこへ若い男がやって来る
健康診断の結果を見せる
「なかなかないよ 肝臓と脂肪肝でE
 もっとボロボロになるから人は 大丈夫よ」
結果を見た女は にこやかに笑った

岩手の大船渡から出て来て
川崎の電機会社の寮に入った娘に
かわいそうだと思ったのか 
母親は机を送った
寮母は「嫁に出したんじゃないんだか

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詩)仮死の薄い膜

詩)仮死の薄い膜

娘は仮死状態で生まれて来た
生と死のあいだの薄い膜を一枚めくって
あの時の産声のない一瞬の間
鼓動が数秒遅く
気がついたように
気まぐれに動いた
そこから生まれることがあたり前だったように動き始めた時間
父親と呼ばれることになった男は何故か職場に電話をして
「生まれました」と報告した
上司は興味もなさげに「そうか」と答えた
日常はその瞬間からもう始まり
命とは
なんとも不思議に
何かを動かすものだ

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