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娘は仮死状態で生まれて来た
生と死のあいだの薄い膜を一枚めくって
あの時の産声のない一瞬の間
鼓動が数秒遅く
気がついたように
気まぐれに動いた
そこから生まれることがあたり前だったように動き始めた時間
父親と呼ばれることになった男は何故か職場に電話をして
「生まれました」と報告した
上司は興味もなさげに「そうか」と答えた
日常はその瞬間からもう始まり
命とは
なんとも不思議に
何かを動かすものだ
動かされ動かされ
ここまで来たが
自分が生まれた時もこうやって何かを動かして来たのだろかと
今ごろになって
男はニヤニヤしている

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