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あらびき桃太郎 - 6 「やっと登場」

青年 : 「うるせえなぁ!! アンタら」

ばあ : 「それはこっちのセリフさ! なにひとさまの飼いブタに手ぇ出そうとしてんだ!」

青年 : 「飼い豚? もしかして、ブタを木につないでたのはお前らか? 言っておくがな、このブタ、オオカミに襲われそうになってたんだぞ。そこをおれが助けてやったんだよ。むしろ感謝してほしいくらいだ」

じい : 「いや助けてないやん。思いっきり吊し上げてましたやん」

青年 : 「あれは違う。寒そうだったから、暖をとってやってたんだよ」

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ばあ : 「サイコかお前」

青年 : 「あと、しょうがをすりおろしてスープも作ってやった。内側からポカポカしてくるだろぉ。しょうが」

じい : 「ややこしい。なにコイツ……」

この青年。名を桃太郎というそうでした。ばあさんたちが事情を説明すると、すぐに仲直りできました。ところが、どこからやってきたのかと尋ねると、記憶が断片的にしかなく思い出せないというのです。

もも : 「うっ、すまん。思い出せるところだけ話す。まずおれは、桃の中にうずくまって、川を流れていたんだ。たしか……ドンブラコ、ドンブラコ、といった感じだったと思う。

そして何者かに拾われた気がしていたら、急にパカンと光が差して、そこにいたのがじいちゃんとばあちゃん。おれは二人に愛情をそそがれ、大切にに育られた。たしか……すくすく、といった感じだったと思う。

体が大きくなり、おれは恩返しをしようと思って、果てにある鬼ヶ島に鬼を退治しに行くことにした。二人は寂しかったはずだが、おれの強い信念を組み取ってくれたらしく、笑顔で送り出してくれたよ。

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旅は意外にも順調だった。ほんとチョー意外。しかし、途中で道に迷ってしまい、この山で野宿していたところなんだ。くっ……。ここまでだ。こんな断片的にしか思い出せなくてすまないな」

じい : 「え、断片的? どこが断片的? 完全にピースひとつなぎになってますけど」

(グゥググゥゥ)

もも : 「あっ……。すまん。さっきまでしょうが焼きの想像してたから、お腹空いちゃってて」

じい : 「やっぱ食おうとしてたんじゃねぇかテメェ!!!!!!」

もも : 「なぁ、旅に出るときばあちゃんからもらったきびだんご。みんなで食わない?」

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じい : 「うわぁぁぁぁぁ!!!!! 虫っ!! 虫ィィ!!!!」

もも : 「わりぃんだけど、大事な非常食だから少しずつで頼むな」

じい : 「いらない!! ちっともいらない!!」

もも : 「そうかぁ? ゴマ効いててうめぇぞ?」

じい : 「アカン!!!! もう手遅れやこの人」

もも : 「きびだんごが嫌なら、おむすびもあるぞ」

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じい : 「アアアア!!!!! 虫が!! やっぱり虫が!!! ってか海苔みたいになってるゥ!!!!」

もも : 「いやぁ。なかなか食べられねぇんだよ。ばあちゃんの愛情で包まれてっからなぁ」

じい : 「ばあちゃんの愛情ちゃう!! ウジや!! 包んでんのウジ虫だから」

もも : 「これもいらねぇ?」

じい : 「いらねぇ!! ぜってぇいらねぇ」

もも : 「ゴマ効いてうめぇのにな」

じい : 「だから怖いってば。バカってこわーい。無知ってスゴーい」

もも : 「あと刀ももらった」

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じい : 「イヤこれはなんでだァアアア!! どう管理したら刀がそうなるの!? お前から? お前からわいてんのか?」

もも : 「いいー刀なんだこれ。抜いただけで、みんな悲鳴をあげて逃げてく」

じい : 「違う悲鳴だねそれ!!」

もも : 「しかも、ゴマ効いててうめぇ」

じい : 「いや食いもんじゃねぇからっ!! しゃぶってんじゃねぇ!!」
(あぁ……。この子ヤバい子なんだ……。)

《第7話につづく》

イラスト : 石川マチルダ

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