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 生まれた時から、長くて10年と少しくらいだろうか、それくらいは固有脳を持っていることが多い。

 もちろん、他の個体の影響をほとんどの場合で受けてはしまうが、とはいえ十分高度な生命体である。

 固有脳から共有脳へ移行するのにかかる時間は、個体によって様々だ。数年かかる場合もあるし、これまで報告された例では、3日間という場合もあったらしい。

 はい、ここまでが1ね。

 共有脳へ移行した後は、共有脳をもつ他の個体との物理的な接触を避けたがる個体が、全体の半数ほど発生する。そのメカニズムは明らかになっていないが、固有脳が他の個体からどのような影響を受けたかに依存するという説が有力だ。

 共有脳はしばしば実体化する。いわゆる「複数個体による一個体としての実体化」である。これが起こるとき、共有脳をもつ他の個体との接触を避けたがるか否かは関係がないが、仮想敵が必要になる場合が多い。

 はい、ここまでを2としましょうか。

 仮想敵として一番多いのは、同じく実体化した共有脳だ。ここで念のためにおさらいしておくと、共有脳は一つの種に対して一つしか形成されない。この絶対的なルールのために、ほとんどの場合において、仮想敵は同一の脳の中に実体化する。

 「共有脳とは、脳の墓場のことである」というゲヌマの言葉はあまりにも有名だが、その言葉通り一度共有脳へ移行した個体が固有脳を取り戻すことはない。しかし彼女が示した研究結果には明確な欠点があって、のちにターシュクホルンが別の実験で新事実を明らかにした。

「はい、ここまでが3。どこでわかった?」

「ごめん、全然わからない」

「え、うそでしょ? 1でわかってもせいぜいカッピレイム大学レベルよ。もし全く勉強してなかったとしても、ターシュクホルンで普通は誰でもわかる」

「なるほど、もうこれは進学は諦めたほうがいいね。よし、勉強なんかやめて遊んでくるとこにするよ」

「またそうやって逃げようとする。ホモ・サピエンスよ、正解は」

「ああ、言われたことある! お前はホモ・サピエンスかよって」

「自分らに『賢い人間』って名付けるセンスのやつらと同類にされたんだ」

「共有脳ってさ、無意味な計算を延々と続けるシステムみたいなもの? 一歩引いて見たら思考停止と変わらないような」

「それを感覚的に理解してて、ホモ・サピエンスがわからないんだもんなあ」

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