見出し画像

この戦いはわたしたちの戦いだ

どうも、犬井です。

今回紹介する本は、アメリカの民主党上院議員であるエリザベス・ウォーレンの「この戦いはわたしたちの戦いだ―アメリカの中間層を救う闘争―」(2018)です。この本は2017年に出版された「This Fight Is Our Fight : The Battle to Save America's Middle Class」を全訳したものです。

本書では、アメリカの政府がもはや一握りの富裕者のものになっていると指摘し、政府に見捨てられた中間層は没落していると主張しています。また、これからのアメリカ政府が果たすべき役割について、彼女自身の考えも論じています。

昨今、米大統領選の民主党候補予備選挙を盛り上げる彼女が訴えるものは何か。以下で、簡単に内容をまとめていこうと思います。

中間層の没落

アメリカ経済は2008年の崩壊で落ち込みを見せたが、大局的には素晴らしく見える。株式市場は大きく上昇し、企業利益は記録を塗り替え、インフレ率は安定し、GDPは一世代前の二倍に及び、失業率は低下している。

しかし、その指標はアメリカ人の生活実態を反映しているとは言い難い。現在、過去半世紀で最も住宅所有率は低く、フルタイムで働く男性は1972年より少ない。また、半数の人が400ドルの予想外の支出を埋め合わせることができず、成人人口の三分の一が、自分の生活を「やっていくのに苦労している」と言い表している。

つまり、上昇した分の利益が労働者に還元されていないのである。彼らの実質所得は現在のGDPの四分の一程度に過ぎなかった祖父の世代と同じ金額しかない。

一方で、固定支出は天井を突き抜け、交通、住宅、医療費にも出費が重なり、食料品や衣服のお金をわずかながら切り詰めてきた生活は、危機に瀕している。

また、大学進学はもはや贅沢品のひとつとなっている。インフレ調整後の州立大学の学費は四倍になり、70%以上の学生は卒業までに借金をしなければならない。にも関わらず、ミレニアム世代の大卒者はベビーブーマー世代が得た収入より約20%も少なく、大学卒業証書もかつてほど将来を保証するものではない。

そして今や退職後の生活も脅かしている。現在介護施設に入居している62%の高齢者は介護費用を払うことができず、約半数が退職勘定に1ドルたりとも持っていない。また、三分の一が住宅ローンを完済できず、借金漬けに陥っている。

もはやアメリカには持つ者と持たざる者がいるだけで、中間層は存在していない

かつてのアメリカ

1930年代、社会保障、失業保険、困窮者への援助を政府が創設した時、私たちは新たな社会契約を成立させた。税金を納め、政府を通じて、手助けが必要な時にはお互いを頼り_金持ちも貧乏人も、職を持つ者も持たざる者も、老いも若いも_同じアメリカ人だという社会契約である。

また私たちは全員が協力し、政府は、機会を増やすための投資を行った。私たちは、道路、ダム、電力といったインフラに多額の資金を投入した。さらに、学費を払うことのできない人々に学生ローンや助成金を提供した。

また、医学、科学、工学、心理学、社会科学などあらゆる研究が賞賛され、研究投資も盛んであった。それは何か特定の成果や利益を追求した投資ではない。基礎研究を大切にし、どんな研究だろうと私たちの子供や孫のためになるという信念があった

20世紀の私たちの繁栄は、インフラ、教育、研究という未来を思う投資によって築かれたのである。

また、政府は労働組合の強化にも乗り出した。雇用主は、組織化しようとした労働者を脅迫したり、解雇したりできなくなった。労働組合はさらに、児童労働禁止法、最低賃金法、職場安全規制、労働災害補償の成立のために他のグループとも協力した。組合は、失業保険を求めて激しいロビー活動も行った。

結果的に、非組合員にもその恩恵は波及し、所得階層下位90%が1935年から1980年までの所得の伸びの70%を享受するなどして、ほとんどのアメリカ人のために政府は機能していた

寡頭政治国家

近年、選挙運動は本当にお金がかかるようになっている。2016年、当選した上院議員は選挙運動で平均1000万ドル以上を使い、また、その選挙運動を援助する外部団体がさらに1000万ドルを使った。

2016年大統領選で、トランプ陣営で9億3200万ドルの資金が使われ、クリントン陣営では14億ドルの資金が使われた。裕福な献金者と企業がその負担を肩代わりし、彼らは今や競争条件を自分に有利にするようにその影響力を行使できる立場にある。

加えて、企業と超お金持ちは、ロビイストを大量に雇うことで自分たちを有利にしている。ロビー活動への支出はインフレ調整後でも30年前の7倍に達している。

また、大企業は政府高官として経営幹部を政府に送り込んでいる。彼らは前の雇用者を助け、政府での仕事を終えるとすぐに、雇用者に役立つような政府内のコネを持って企業に戻る。

アメリカ人全てに影響を及ぼすような貿易協定の顧問団は、企業経営幹部と財界ロビイストが顧問の85%を占める。もはや貿易協定は密室で交渉されている。

投資顧問業界は専門家を雇い、捏造学術論文の費用を負担している。例を挙げれば、コーク兄弟とその組織は、気候変動の存在を否定する団体に8億8000万ドル以上を投じた。

裁判所も、巨大企業と億万長者の影響を受けている。全米商工会議所の最高裁における勝訴率は右上がりに伸び、1981-86年には43%だった勝訴率は2006-2013年には69%にまで及んでいる。

こうして一部に権力が集中した結果、1980年から2015年の新規所得は、所得階層上位10%が100%を受け取ったのである。(所得階層90%は所得の伸びを1%も受け取ることができなかった)

私たちの戦い

1980年のレーガン以降、新自由主義者たちが主張してきたトリクルダウンの理論が、欺瞞に過ぎなかったことは誰の目にも明らかになっている。トランプは「アメリカを再び偉大に (Make America Great Again)」と言っているが、背景にある考え方はトリクルダウン理論の焼き直しに過ぎない。

このままでは、アメリカの中間層にかろうじて残っているもまで破壊されてしまう。それでは、私たちはどうすれば良いのだろうか。

その第一歩として、まず私たちの価値観を明確にしなければならない。

私たちはまず、いかなる偏見とも戦わなければならない。個人一人ひとり大切にするコミュニティを建設できることを私は信じている。

私たちの戦いの第二の原則は、トップ10%のためでなく、全ての人々のために経済を機能させると明確に宣言することだ。そのためにどうすれば良いか。その答えは過去にある。かつて作り上げたものを私たちでもう一度作り上げるのだ。

しかし、ドナルド・トランプ、億万長者、銀行家、偏見の持ち主らが導くアメリカで、どのようにしたらこうした変化を実現できるだろうか?

私たちは立ち上がり、反撃するのだ。そして私たちはまさに個人レベルでそうするのだ。アメリカは誰もが価値があり、誰もが何かを築くチャンスを得ることができる国でなければならない。

こうした戦いは個人から始まることで、やがてそれが集団の力に変わっていく。手段はデモでも集会でもいい。SNSでの抗議や動画拡散でもいい。私たちはみんなの声を使わなくてはならない。みんなの声を使って悪いものに立ち向かい、良いものを要求するのだ。これが民主主義というものだ。

わが国の未来は私たちの手にかかっている。私たちはアメリカの偉大な約束を死なせてしまうのか、それとも私たちは反撃するのか。

この戦いはわたしたちの戦いだ

あとがき

本日、米大統領の民主党候補選予備選挙で、バーニー・サンダースがカリフォルニア州で勝利を収め、民主党大統領候補に大きく前進しました。バーニー・サンダースといえば、エリザベス・ウォーレンと主張が重なることも多く、そして若年層から絶大な人気を誇る候補者です。

サンダースとウォーレン、そしてトランプの主張を改めて次の図を使って、簡単に説明しようと思います。

下図はエレファントカーブ (=ネッシーカーブ)と呼ばれるもので、1980年から2016年までに、それぞれの所得階級が何%所得が伸びたかを示したものです。この図からわかることは、この30年余りで所得を伸ばしたのは、新興国の中間層とグローバルトップ1%であり、先進国の中間層の所得の伸びは小さいということです。

画像1

サンダースおよびウォーレンは、グローバリゼーションの中でトップ1%(または10%)が莫大な富を享受する一方で、中間層は所得が伸び悩み、格差が拡大していることを批判しています。

一方、トランプの場合は、アジア新興国(主に中国、インド)の発展が、アメリカ人の雇用を奪っているとして、それらの国々を批判することで支持を集めています。

批判の対象は違うとはいえ、サンダース及びウォーレンとトランプの主張は、グローバリゼーション批判という点では一致しています。

つまり、すでにアメリカでは、グローバル化の時代からポスト・グローバル化の時代にシフトしているということです。実際、こうした変化はアメリカだけでなく、EUなど世界各地で見られています。

一方、日本はどうでしょうか。日本もすでに他国と同じようなグローバリゼーションの弊害が現れているにも関わらず、ご存知の通り、未だにグローバリゼーションに邁進し続けています。

このようなタイミングで、次のグローバルな金融危機が起きた時には一体どうなってしまうのでしょうか。

今の日本は、嵐が迫っているにも関わらず、窓を開け放っている状況であるように私には思えるのです。

では。

#読書 #本 #推薦図書 #エリザベス・ウォーレン #この戦いは私たちの戦いだ #格差 #大統領 #アメリカ #グローバリズム #バーニー・サンダース #ドナルド・トランプ

この記事が参加している募集

#推薦図書

42,553件

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?