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自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来

どうも、犬井です。

今回紹介する本は、グナル・ハインゾーンの『自爆する若者たち―人口学が警告する驚愕の未来』(2008)です。この本は2006年に出版された『Soehne und Weltmacht: Terror im Aufstieg und Fall der Nationen』を邦訳した書です。

著者であるグナル・ハインゾーンはジェノサイド研究の第一人者であり、世界各地で頻発するテロの原因として、人口統計に見える「ユース・バルジ」(youth bulge)という現象に注目しています。ユース・バルジとは、年代別の人口をグラフで表した人口ピラミッドの若者世代が過剰に多い現象を指します。そして本書は、急激に若年層が拡大することで、政治が不安定化し、いかに暴力(テロリズム、ジェノサイド、内戦など)に結びつくかを、人口統計上のデータを用いながら説明しています。

それでは以下で、簡単に内容をまとめようと思います。

軍備人口

戦闘能力を有する年齢層の人口を「軍備人口」という呼び方をするなら、その軍備人口の拡大には、いくつかの世代にわたって「ユース・バルジ」が続く必要がある。男性100人につき15歳から29歳までの年齢区分の人口が30人以上になったとき、人口ピラミッド上にユース・バルジの存在を示す外側への膨らみが現れる。この世代の若者たちは栄養も教育も十分に与えられている。

しかし、この世代が父親となり、一人につき3人ないし4人の息子ともなれば、その世代の生存のための闘いは熾烈なものとなる。3人に1人、あるいは4人に2人なら、まだ職にありつけるかもしれない。しかし、あぶれた者に残された道は等し並みに次の6つしかない。

1. 国外への移住
2. 犯罪に走る
3. クーデターを起こす
4. 内戦または革命を起こす
5. 集団殺害や追放を加え、少数派のポストを奪い取ろうとする
6. 越境戦争にまで及んで、流血植民を経てポストを手にする

ヨーロッパの若者たちはこの6つの道すべてを、過去450年に渡り経験した。現代では、こうした現象はイスラム諸国で頻繁に確認される。

飢餓撲滅が平和をもたらすという幻想

9.11テロのイスラム主義の若いパイロットや2002年にバリ島で20人を吹き飛ばした爆発テロを実行した若者たち、2003年、モロッコでサブランカを43人を殺害した若者たちなど、彼らは等しく高等教育や大学教育を受けていた。貧困や飢えからテロリストが生まれるのでない。パンはせがめばもらえる。殺人を犯すのは、ステータスや権力に目がくらんでのことだ。

ユースバルジ・アナリストは、高慢な飢餓撲滅に異を唱えようとしているのではない。ただ、食料や学校が不足がちであっても、それが将来、危険を招くことに繋がるとは考えない。むしろ、どんどん増え続ける野心満々の若者に、応分の地位を用意してやれないポスト不足が問題なのである。飢餓との戦いに勝利すれば、この世から戦争は無くなるだろうという世間一般の願望は、戦略家から見れば、愛らしくも無邪気な幻想の最もたるものでしかない。

経済が発展してもユース・バルジは収まらない

2003年の時点で、発展途上国には15歳未満の子供が14億人育っている。そのうち6億人は、今後15年間に故郷を出なくてはならないかもしれない。第一世界には6000万ないしそれ以上が来るかもしれない。いや、第一世界の高齢化緩和のためにはきてくれたほうがいいというべきか。

何れにせよ二大先進圏のアメリカとヨーロッパがそれぞれ今後15年間に3000万の移民を受け入れるとしてみよう。その限りでは、国外移住の意志を持つ第三世界の10人に1人にチャンスが生まれることになる。残りの5億4000万がまさに、収容先探しが必要なユース・バルジを形成する。

他国からの移民も高齢化し、またその土地の人同様そんなに子供を多くは持たなくなるので、必然的に将来、移民の比重はますます高くなるだろう。そうなれば、結果として第三世界の若者は幾分多めに中に入れてもらえることにはなるだろう。

人口統計上の転換を希求するヨーロッパ

リベラル一辺倒に国境を開放したところで、移民がどんなに頑張ってもできないことはある。つまり、幼少時から高度テクノロジー社会で成長し、我が物顔にその社会と付き合うすべを身につけ、やがてその社会を着想豊かに新たに高みへと導いてくれる批判的な大衆を形成する、天分豊かな若者たちをたくさん用意することである。

ヨーロッパがこのような前提条件を満たして世界経済の最先端にとどまるには、移民がどういった動機でやってきたにせよ、その人たちより、自国で育った自分たちの子供世代をパートナーに選んだ方が良い。また、自国の労働力不足を移民によって埋めるのは不十分であり、自力増殖への再転換が必要なのは間違いない。

しかし、先進諸国の自己増殖への転換が、全世界のユース・バルジ諸国内部の圧力を高めるのは間違いない。が、移民によって今後15年間にチャンスをものにできるのは、10分の1程度と予測されるから、放っておけば良いという意見もあるだろう。しかし、その時になって、21世紀の第1四半世紀に、その前の1世紀分の損失とは全く別な損失が待ち受けているのかもしれないと感じとっても遅いのだ。こういう一文がずっと間違いであって欲しいのは言うまでもない

あとがき

人口学の勉強がてら本書を手にとってみたのですが、本書の「ユース・バルジ」の分析は大変興味深く、また、大量のデータを交えて分析が展開されているため、説得力もありました。ただ、イスラム諸国のユース・バルジ緩和のために、先進国が移民を大量に受け入れた方が良いという主張は、現在、移民受け入れが西洋における政治的混乱につながっていることを鑑みれば、誤りであったといえるでしょう。

とはいえ、この主張の誤りによって、ユース・バルジの分析までもが棄却されるわけではありません。本書では、あまり言及がありませんでしたが、例えば日本においても、ユース・バルジの分析は有効だと思われます。現に、ベビーブーム世代が成人になった60年代から70年代前半までは、学生運動が盛んであったことはこの分析に説得力をもたらすでしょう。(勿論、ユース・バルジの分析は万能というわけではありません。例えば、若者中心のデモが起きている香港は、出生率が1をきるなど、若年層の人口はかなり少ないです。)

ただ、個人的に興味があるのは、老年人口が膨張する、つまり「エイジド・バルジ」という現代的な問題はどう分析されるのかということです。普通の思考なら、ユース・バルジとは逆で、社会は安定的で保守的になるのではないのかと考えられます。ただこうした仮説は、早速、日本という反例がみつかります。

ここ30年の日本を考えれば、構造改革、グローバリズム、新自由主義など、社会を不安定化させ改革を推し進めたのは60を過ぎた人たちでした。今あるものを守り、後世に残すというのが普通のエイジドだと思うのですが、日本のエイジドは、「ぶっ壊せ」とか「抜本的改革」などと実に革新的です。(こうした人たちが保守を自称してるので、本当に頭が痛いです)

こうした改革路線が今なお継続中なのは明らかであり、私の大学でもどうやら改革志向の方が、新たな総長になるそうです。新たな総長がどういった方なのかは詳しくは知りませんが、「自由の学風」を掲げるこの大学も、30年の改革に対していよいよ反逆する力がなくなってしまったと考えるべきでしょう。

ただ、本音としては、あと10年や20年もすればこの世から退場する方々には、あと50年や60年は生きる我々のことをもっと考えていただきたいと思わざるを得ません。そもそも今回のコロナ禍にしたって、身体的なリスクを考えれば、自粛に付き合っているのは我々若者であり、教育的な機会などあらゆる機会を奪われていることを考えれば、国立大学の学費免除の議論や、若年層への新たな給付金の話を真剣に議論してもいいはずです。しかし、そうした議論をするのはせいぜい山本太郎党代表や日本共産党くらいです(個人的には、日本共産党が最も若年層のための政策を打ち出してくれていると思いますが、れいわ新選組も同じく、目の前に迫った中国に対する安全保障の議論が不十分であり、中国に対して脅威を感じている若者の支持を集めることができないという意見にも納得できます)。

私たちのために動いてくれる政治家や政党も不十分となったら、改革志向のエイジドに対抗するには、私個人でできることは、理論で武装し、官僚にでもなって内部から少しずつ戻していくしかないのかなあと考えています。

最近の若者は元気がないと言うけれども、こちらとしては、「改革、改革!」と老人が元気を出すなと、言いたくなる気持ちも理解していただきたいです。

では。

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