エッセイ : 欧州で食べた朝ごはん 3 / シュヴァルツヴァルトで食べたドイツ定番の朝ごはんと黒い森のケーキ
初めて欧州出張に行った時、ドイツ南部のスイスとフランスの国境線と接している地位にある保養地で
土日を過ごしたことがある。
シュヴァルツヴァルトと言われる所だ。
シュヴァルツは黒い、ヴァルトは森で黒い森と言われている。
ここは、グリム童話のヘンゼルとグレーテルの舞台でもある。17世紀、ドイツは大飢饉があり、貧しい人たちは口減らしのために、子どもを森のなかに捨てなければならなかった。その悲しい歴史を、
グリム兄弟がヘンゼルとグレーテルという童話で後世の人たちに伝えた。
黒い森の面積は5180平方キロメートルで愛知県とほぼ同じ面積の広大な森だ。
何故黒い森と言うか? と言うと、針葉樹が生い茂っていて、遠くから見ると森が黒く見えるからだ。
もう1つは、森のなかは、針葉樹に覆われていて、
太陽の光が遮られていて真っ暗闇だからだ。
この真っ暗闇のなかを懐中電灯を持ってガイドさんの案内に従って入って行く。
この真っ暗闇のなかに所々射し込んでいる木漏れ日を見るためだ。その木漏れ日は本当に美しかった。
この時の経験は後日詳しく別のエッセイで書こうと思う。だが、僕がこの地を訪れた後、酸性雨による自然破壊が深刻な状態となり、黒い森の約75%の木が枯れてしまった。
もう、あの美しい木漏れ日は見れないのかもしれない。
木漏れ日を見た後、ホテルのカフェに行った。
僕が行ったのは黒い森のなかにあるティティツェイという所だった。ティティツェイ湖のある所で、その当時ホテルは1軒しかなかった。
そのホテルにはカフェはあってもレストランはなかった。
食事は朝食のみ食べることが出来た。
昼食はホテルの外にあるレストランか売店の様な所で売っている料理を食べる。夕食は近くにあるスーパーで買って来てホテルの部屋で食べる。
これには理由があるがその前に、
カフェの入口の透明なケースのなかに、チョコレートケーキが置いてあった。僕が美味しそうだと思って見ていると、お店の女の人が僕に説明してくれた
「シュヴァルツヴェルダー キルシュ トルテです。英語で言うと、そうですね、ブラックフォレスト ケーキ(黒い森のケーキ)でしょうか。チョコレート風味のスポンジケーキにサクランボ酒を染み込ませ、真ん中にスライスしたシロップ漬けのサクランボを挟み、ケーキの上に生クリームと刻んだチョコレートを乗せたものです。いかがですか?」
僕は珈琲と一緒にお願いした。
欧州ではサクランボを日本人の様に、生でそのまま食べない。チェリーパイにして食べるのが一般的で
あとはシロップ漬け等にしてケーキやお菓子と一緒に食べる。
それから珈琲だが、欧州にはアイス珈琲がない。
珈琲を冷たくして飲む習慣自体がない。珈琲はあくまでも温かい飲み物だ。
それから、ドイツに限らず欧州では、ジュースとは
果汁100%の飲み物のことを言う。だから果汁が
100%に満たない炭酸飲料のようなものは、
オレンジならオレンジドリンクという言い方をする
珈琲を飲みながら黒い森のケーキを食べた。
染み込ませてあるサクランボ酒のアルコール度数は高めで食べると少し酔いがまわる大人のケーキだった。だが、苦目のチョコレート風味のスポンジケーキとよく合って美味しいかった。
ドイツの食事は正確に言うと1日5食。朝、昼、晩の他に朝食と昼食の間、そして、昼食と夕食の間に
プレッツェルやクッキー等の軽食を食べる。
温かい料理を食べるのは昼食のみで、朝食と夕食は
冷たい料理を食べる。
冷たい料理とは、パンをハムやチーズ等と一緒に、いろんなスプレッドを塗って食べるものだ。
だから、僕が宿泊したホテルのカフェでは夕食を提供していなかった。
僕は昼食を売店の様な店で、焼きソーセージとマッシュポテトとザワークラウト(酢キャベツ)のセットをパンと一緒に食べた。
ティティツェイ湖の周りを散策した後、スーパーに夕食の買い出しに行った。
ドイツのパンは酸味のあるライ麦パンが中心で、
たくさんの種類がある。酸味のあるパンは苦手という人がいるが、僕は大好きだ。
また、ドイツはスプレッドの種類が豊富で充実している。チーズ系の物、ミート系の物、チョコレート系の物、ナッツ系の物、フルーツ系の物、
その他調理系のものだ等、目移りしてしまうもほどだ。
僕はシュヴァルツヴェルターブロート(黒い森のパン)という濃い茶色のライ麦パンを選んだ。
薄切りのハム位の大きさのサラミソーセージの薄切りとレバーのスプレッドとチーズとアボカドと小瓶の赤ワインを買った。
部屋に戻りシャワーを浴びた後、テーブルと椅子を
窓際に運び、買って来た食材をテーブルに置き、
1人だけの夕食を食べ始めた。
サラミソーセージは日本と同じ味だが、日本のものよりも美味しいと思った。
レバーのスプレッドも匂いが余りなく、コクのある味で美味しいと思った。僕は持って来た万能ナイフでアボカドをスライスして、レバーのスプレッドのパンにのせて食べた。
窓の外には満月が見えていた。そして、その月が
ティティツェイ湖に移って、月が2つあるように見えた。
月明かりに映し出された夜の黒い森は幻想的ですらあった。
どの部屋からも話し声ひとつ聞こえなかった。
全てが静まりかえっていた。
落ち着いた気持ちになった。欧州には、美しい景色も歴史的建造物もある。だが、僕が欧州が好きな1番の理由は、この心が落ち着く雰囲気だと思った。
翌朝、朝食を食べにホテルのカフェに行った。
ドイツ定番の冷たい料理がビュッフェスタイルで並んでいた。
僕は、黒い森のパン以外のパンを2種類トレーにのせた。
お皿にハムとチーズをのせた。
スプレッドのコーナーで、チョコレートのスプレッドとヘーゼルナッツのスプレッドとイチゴのジャムを選んだ。
オレンジジュースを取りテーブルについた。
チョコレートのスプレッドが1番美味しいと思った
ヘーゼルナッツもジャムも美味しかった。
お店の女の人が珈琲を持って来てくれた。
僕は少し濃い珈琲を飲みながら、カフェの窓際から
ティティツェイ湖と黒い森を見た。
やはり、この心が落ち着く雰囲気が、僕が欧州を好きな1番の理由だと思った。
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