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10年越しの夢を捨てる時が来た

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どんな人生にも、希望はあると信じて。
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2023年3月の記事一覧

10年越しの夢を捨てる時が来た #1

10年越しの夢を捨てる時が来た #1

ー10年間追いかけ続けた夢を、諦める日が来た。

 思い返せば長いような短いような10年だった。自分なりに、出来得る精一杯の努力をし尽くしてきた、つもりだった。

 でも叶わなかった。夢を諦める日はある日突然、やってきた。

「ちょっと多すぎます。大体3ヶ月に1回のペースですよ」
 看護師長は渋い顔で何やらメモを覗き込んだ。大きく息を吸ってから、佐藤夏菜子の顔に目を移す。
「体調を崩すことは誰にで

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10年越しの夢を捨てる時が来た #2

10年越しの夢を捨てる時が来た #2

 夏菜子がこの病院に転職したのはちょうど1年前だ。その前は老人ホームで3年、その前は町医者で2年、その前は別の病院で、その前はまた別の老人ホーム。転々として全部で10年。夏菜子は10年間、看護師として働いてきた。

 程度や頻度の差はあれ、これまでの勤務先でも、夏菜子の不調の症状は起こっていた。それはぎっくり腰であったり、扁桃腺が腫れるであったり、蕁麻疹が出るであったり、およそ相関関係がないような

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10年越しの夢を捨てる時が来た #3

10年越しの夢を捨てる時が来た #3

 苦しくなかった訳ではない。むしろいつも、逃げ出したいほど苦しかった。息をしているのに、溺れて呼吸困難でいるような感覚が常にあった。

 夏菜子は小さい頃から「弱い子」だった。

 小学生の頃は、数ヶ月に一度は熱を出す子だった。風邪を引いたり扁桃炎を起こしたりインフルエンザに罹患したり、冬場なんかは毎月近くの小児科にかかって点滴を打たれていた。小さな子どもは注射針を見たら泣いてしまうものだが、夏菜

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