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絶望しないで、自分の世界を変えていくこと

今期最も目が離せなかった、そして最も面白かったドラマ
「最高の教師」が最終回を迎えた。

このドラマは、本当に脚本が素晴らしく、
一体この脚本家はどんな人生経験を積み、
どうやって考え、なにを参照してこの脚本を書いたのか
どうしてこんな、人生哲学が描けるのか、語れるのか
ただただ驚愕して、毎週鑑賞していたのでした。

こんな言葉をかけられる教師になれたら
本当にすごいだろうなあ。
一度生徒に殺される経験をしたら、ここまで考えられるようになるのか
など、九条里奈という最高の教師像を
毎週ずっと、感嘆しながら眺めていました。

私がなぜこの視点でこのドラマを見てしまうかというと、
元教員だからです。笑

もう少し咀嚼し、じっくり振り返っていきたいところですが、
最終回を見て考えたことを、忘れないうちに書いておきたいと思います。

以下ネタバレです。まだ見てない人は回れ右です。






一周目の九条先生を突き落とした犯人は、星崎くんだった。
彼は、自分が周りの人間と違うこと、感じ方が異なることをひとり悟り
誰とも共感しあえることもなく、
周りに合わせ、自分を押し殺すことで、生きてきた。
そんな彼が見ている世界はモノクロで、無感情だった。

周りが変わっていく中で、変わることなく、心が動かない自分に
孤独を感じていて、これからもそれが続くことに絶望していた。
自分を殺し続けることで、自分が消えてしまうような感じを抱えて生き続けるのは、それは、それはもう苦痛だ。苦しい。
そんなこれからも続く絶望を抱えた彼は
九条先生を突き落とした後、自分も死のうとしていた。
彼はとても死にたがっていた。
「先生、僕と一緒に死んで」という願いは
孤独な彼の精一杯の、望みだったんだなあと思うと
切なくてたまらなかった。

彼の最後の願いに、
「あなたはおかしくない」と優しく声をかける九条先生
そして九条先生からの最後の言葉に
「ごめん、何にも感じないんだ」という星崎くんは
自ら飛び降りようと柵を越える。

学園ものドラマにありがちで
このドラマも、ベースではしっかりなぞってきた
王道の、熱血で、暑苦しく、説教臭く、みんなの心が一つになって、
良かった、みんな無事で、あなたも心を入れ替えられて良かった!的な
ご都合主義的・大円団を
否定するこの最終回に、ものすごく痺れた。
ほんとうは、星崎くんみたいな「なにも感じない」という感情は、
無数にあるんだよね。絶対存在する。大円団に馴染めない子は絶対いる。
ただ、無視されているだけで。いる。

実際私がとてつもなく苦手だった。
一致団結、クラスをまとめて、みんな仲良し!
ありがとう!このクラスは最高!感動をありがとう!
いいクラスだね。まとまっているね。
うん、苦手だった。否定はしないけど、どこかで、強制されているような感覚がつきまとって、「こうあるべきだ」と。
でもそう感じてない子もいるんじゃない?そういう子たちを無視して学級づくりをしていくの?
そんなモヤモヤを抱えていた。
私自信が、ちょっとそのけがあったせいもある。
自分で自分を教員失格だな、と思っていた。

と、まあそんな、どうにもなじめない感情を肯定されたようで
無視せず、そんな感情と向き合ってもらえたようで
それをドラマでやってくれたことで
大変なシーンだけれど、嬉しかったし、きっと同じ想いの人たちが救われた
この最終回がとてもかけがえのないものとなった。

しかも、じゃあ「やっぱ心が動かない」と孤独と絶望の果てに
彼を死なせるのかというと、そうではなく
そこはちゃんと救いのある展開が待っていた。

柵を越えてしまった彼だけど、
きっと九条先生の言葉は骨身に染みたんじゃないかと思う。
クラスメイトが駆けつけてきた時に。
スーパーヒーローのような九条蓮に助けられ、
相楽に「俺たちのために死ぬな」と言われた時に。
少しホッとしたような表情で、迫田くんにおぶわれている星崎くんをみて
ご都合主義をなぞらずとも、こんな救われるな最後が見られるのかと
嬉しく思った。
周りが変わったから、星崎くんの周りの世界も変わっていたんだ。
(その後浜岡は襲ってきたんだけど。)

九条先生が「死にたい」と言った星崎くんに伝えた
「見えてないだけ」
という言葉に、そうなんだよなあと強く思った。

小学校、中学校、高校と、社会に出る前のこどもたちは
狭い「学校」という世界で生きている。
ものすごい、閉鎖的な世界なんだよね。学校。
だけど、こどもたちにとってその世界はほんとうに「全て」なんだよね。

そこで、出会い、経験するものが「全て」で
それが運悪く自分に合っていないと本当にきついんだ。
閉鎖的な世界の中で、苦しくて窒息してしまいそうな人たちが
たくさん、本当にたくさんいるんだと思う。
そこからまだ簡単に抜け出せるような社会になっていないし。

もっと世界は広くて、いつか自分が変われるような世界や人と
出会えることだってあるかもしれないのに
その小さな世界の中で、今にも死んでしまいそうなこどもたちがたくさんいることを考えた。

自分が自分で変わることは大変だ。
本当に頑張らないと、置かれた環境の中で変わっていくのは本当に難しくて
みんなが二周目の鵜久森さんになれるわけではない。
二周目の鵜久森さんには、二周目の九条先生がいたしね。

だけど、彼女が九条先生に宛てたビデオレターで言ってた言葉ぜんぶ
(今セリフは全部出てこないけど)
変えられない、と、1周目に絶望した彼女ではなく
変えられると気づいた、彼女からの力強いメッセージが
ほんとうに、ほんとうに、今、膝を抱えて苦しむこどもたちひとりひとりに届いてほしい。

そう、自分を変えるだけでなく、
自分のいる世界を変えることだってできる。
自分は何にでもなれるし、どこへだっていける。
変える方法はいくらでもある。

だからどうか、どうか、
そこで立ち止まって、自分で終わらせないで。

「色を失って白けていたのは、世界じゃなくて自分だったと気づいた。」

「まずは自分だけが、自分の思いを信じてあげる。
 そうすればきっと、変えようと動けるはず。
 変わらないなんて、白けないで。」

と優しく伝える九条先生の言葉に、
私自信が、自分の背中をさすられているような気がした。


毎年、神社で祈ってることがある。
「自分に自信が持てますように。自分を信じてあげられますように。」と。
毎年、同じことを祈っている。

このドラマは、教員を辞めた自分にできなかったことを
たくさんなぞるような
そして、なぜ自分にできなかったのかを考える材料にもなった。
教員をやっていて、ずっとモヤモヤしていたことを
ドラマを通して説明されているようだった。
毎回いろんなことを考えていた。

一周目の、モノクロの世界にも共感した。
いじめや非行には、自分の中で精一杯、向き合ってきた。
だけど、未熟な自分には考えが及ばず、
適切な言葉をかけてあげられなかったことが、たくさんあった。
疲れ果てて、無気力になることもあった。
たくさんの失敗を重ねて
いっぱいやり残して
辞めた

教員でない
今の私にできることはあるだろうか
置かれた世界の中で、孤独と絶望に苦しむ人たちを救うために
そして、内側で同じように苦しむ自分に、してあげられることって。

そうやって考えていくと、今自分がいる場所と
やっていることとの、辻褄が合ってくる

孤独な世界に閉じ込められている人へ
世界はもっと、広くて、美しくて、楽しいんだと
伝えていけたらいいなとおもう。

私には無理だ、と諦めないで。
何にも変わらない、と無気力にならないで。


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