見出し画像

1976年8月15日、夏の日の思い出(05)

自宅から6、7分程度歩いたところの2階建ての一軒家の前まで来た。
「ここ」と言って、僕はポケットから鍵を取り出し、ドアを開けた。
ドアを開けると1畳ほどの玄関があり、上がってわずかスペースがありその正面のドアを開けると居間になっている。それと上がってすぐ左側にドアを開けるとキッチンである。そして右側に階段と浴室とトイレに通じる廊下がある。
玄関に入り、すぐに雪を連れて階段を登り2階へ上がった。
2階には6畳の2部屋あり、襖で仕切られている。手前の部屋は押し入れもない部屋でベッドとサイドテーブルだけをおいてある。奥の部屋には小学校に上がる時に買ってもらった机があり体の成長に合わせて高さの調整が出来るため今も使っている。その机の上に今読んでいる本や夏休み中に読もうと思っている本が置かれている。他にコミック本で大半を占めいる本棚、洋服タンス、ローチャストなどがところ狭しと置いてある。そして押し入れの中にはアイスホッケーの防具類やテントや寝袋、バック、靴の入った箱などを入れている。
とりあえず、椅子とかソファーとかいうものがないので雪にはベッドに腰掛けてもらうことにした。
 他人をこの部屋に入れる想定はしていなかったので2階に上がったときすぐ寝らるようにと寝室を手前に設置したのだ。
僕自身この家にいる時間は短いので日によっては奥の部屋に入ることがなく、ただ手前の部屋で夜寝るだけのこともある。
ベッド脇のサイドテーブルの上に今日レコードを買ってくる予定があったから小型のレコードプレーヤーを置いていた。
「とりあえず、浜田省吾のレコード聴いてみる」と言って、レコードを入れていた袋から取り出し、レコードプレーヤーにレコードを乗せた。
レコードに針を落とすと1曲目の『路地裏の少年』が聴こえてきた。
最近は、歌詞の意味がわからないのに洋楽のレコードばかり買っていたので、このレコードは久しぶりに買った邦楽レコードだった。
僕は、この曲が終わるまで何も言わずに聴いて、この曲が終わったところで「さっき、喫茶店でこのレコードを聴いてさ。この1曲目で衝撃を受けて、このレコードが欲しくなったんだ。それで喫茶店のマスターが最近サウンドコーナーで買ったって聞いたから、すぐにサウンドコーナーへ行ったら、あったから買ってしまった」と僕が言った。今、2曲目の『青春の絆』が流れている。
雪は、目を閉じて、今流れている曲を聴き入っているようだ
雪にどうだったと聴くと「いいと思う」と雪が言った。
僕は、レコードをかけたまま「飲み物取ってくる」と言って、部屋から出て階段を降りた。
僕は、キッチンの冷蔵庫から缶コーラを2本取り出し部屋に戻った。
部屋のドアを開けると目に入ったのは、何も身に纏わないでうつむいて立っている雪の姿だった。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?