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2021年4月の記事一覧
着ぐるみの事情 ⑦出演が決まる
練習の日が来た。今日もパインはいた。私たちはついにデビューの演目を告げられた。「このは、美少女ムーン。淡路島のショッピングセンター。」社長が言った。「パインは美少女ムーン。北陸。」同じ「美少女ムーン」でも2班で稼働するらしい。演目が決定したらアクションの練習はさておき、さっそく台本を回し読みして、カセットテープのセリフを聞きこまなければならない。
ショーのための台本と、カセットテープは班で一つず
着ぐるみの事情 ⑤もっとキック
左殴りは右利きの私にとってさらに難しくなった。殴るどころではない。順番通りにグーにした手を出すことしかできない。その上かまえの腕も反対になる。もうわちゃわちゃパニックである。
左殴りもわからないまま10回終えると、次は「フック」だ。かっこ悪くてもただ単に真似するだけなら簡単な部類に入るだろう。でも気を抜くと「やった後のかまえ!」と言われる。これも右は理解できるが左は初めての動きに腕と頭がついてい
着ぐるみの事情 ④円になってパンチ
マットを使った練習がひと段落すると、次はかっこいい立ち回りで使うパンチやキックの練習だ。私がパンチと思っていたものは「なぐり」と呼ばれていた。そしてキックと思っていたものは「けり」と呼ばれていた。
殴りには右殴りと左殴りがある。右手をグーにして前に出して敵をやっける。いや、やっけない。やっける演技をする。本物の泥棒を倒せるかどうかではなく、いかにすばやく無駄な動きなく殴った感を出せるかが大事だ。
着ぐるみの事情 ③練習初日
初めての練習の日が来た。私は遅れないようにきっちりと6時までに事務所に到着した。すでに小さな事務所の一室では先輩達がジャージ姿で狭そうに座っていて、男性がほとんどだった。社長に促され、私もさっそくトイレでジャージに着替え、「やる気あります!」という雰囲気をできるだけ醸し出し、次に何を言われるのかを待っていた。
「練習行こうか。」と名前も聞かれぬまま長身の男性の先輩に言われ、ついて行く。そこは事務
着ぐるみの事情 ②面接
アルバイトで着ぐるみの中の人になれることを知った私は、高校を卒業し1995年4月下旬のゴールデンウィーク前に、アルバイト情報誌を各種読み漁り、ついに着ぐるみのアルバイトを見つけることができた。
場所は江坂駅、ゴールデンウィークに向けて募集していて、ゴールデンウィークだけでも可、長期でも可、「君も着ぐるみショーに出よう!」というような事が書いてあった。こういう時の行動は私は早い方だ。自慢ではない
着ぐるみの事情 ①着ぐるみになりたい!
小さい頃から祖母の家の近くの宝塚ファミリーランドに現れる動物の着ぐるみが好きだった。人型のお人形よりも動物のぬいぐるみが大好きで遊んでいたので、それが人間ぐらいの大きさになって相手をしてくれるなんて、摩訶不思議な感覚でうれしかったように思う。私は着ぐるみを見かけるたびにそばに駆け寄り、くっついていた。
小学校5年生の時、祖母の家に行き恒例のようにファミリーランドに訪れると、着ぐるみの口から中の