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流浪の食微録

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知られざる美味の探求と出逢いを求めて彷徨う、ロンリー・ミニマリストの食紀行。
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#ランチ

爽快な鮮魚が踊る、刺身定食の愉悦。

爽快な鮮魚が踊る、刺身定食の愉悦。

「大衆酒場さぶろう すすきの店」

2021年8月19日(木)

晩夏の白んだ空。

暑熱を冷ましつつある陽の余韻。
数日振りの好天はすっかり秋に衣替えしたかのようで、
どことなく寂しく、どことなく憂いを纏う。
この夏の狂おしいほどの異様な暑さの反動かもしれないが、振り返れば名残惜しい。

この状況下で何を食べよう?
ひと気が疎らになって久しい通りに、ランチメニューの看板が寂しげに佇立していた。

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斬新でボリューム溢れるランチと紫煙の漂い。

斬新でボリューム溢れるランチと紫煙の漂い。

「魚と銀シャリ せいす」2021年4月23日(金)

例年と比べて異例の早さで桜吹雪が街中を舞った。
ここ最近の傾向としては、決まった時間に食事をすることなどなく、極端な日は歩きながら、あるいは食事をすることもない日がしばしば生じた。
もちろん、身体や精神はその反動を余すことなく見逃すことはない。
インバウンドで殷賑を極めていた狸小路商店街も、今ではその余韻すらなく陰鬱とした落ち着きが定着していた

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ザンギの弾力を削ぐ、揚げ過ぎの硬直。

ザンギの弾力を削ぐ、揚げ過ぎの硬直。

「札幌ザンギ本舗札幌駅北口店」2021年1月28日(木)

ザンギのルーツは釧路にあるという。
鶏肉の下地から味を漬け込んだものをザンギと言い、そうでないものは唐揚げである、といった説もあるらしい。
それは民族と国家の差異と同様、ザンギと唐揚げの峻別は困難なのかもしれない。

ザンギの店名を冠したこの店を知ったのは、つい最近のことである。
しかもオープンして間もないようで、どことなく真新しい相貌の

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色鮮やかな海鮮丼とザンギの密やかなる饗宴。

色鮮やかな海鮮丼とザンギの密やかなる饗宴。

「寿司・中華料理 福禄寿」2021年1月21日(木)

四季折々の豊かな表情を見せる札幌の中でも、冬はただひたすら白に染まり、しばしば生じる寒暖差は町を灰色に染めたかと思うと、路面を凍らせては住み慣れた者でさえ転倒を余儀なくされる。
しかも、この街の都心部の構造は端的に厄介で、札幌駅と大通駅をつなぐ地下歩行空間の存在によって分断された地上のビル群は、白い季節の間は地上の寒さを避ける人々との隔絶に悩

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トンカツとせり、玉子とじが踊る、創意工夫の妙。

トンカツとせり、玉子とじが踊る、創意工夫の妙。

「和食家 駿」2021年1月19日(火)

雪が意思を剥奪する。
しかも、それは激しく鋭い。
地下街を歩いていても、手足の先から震え上がるほどの寒さが突き上げてきた。
それに反して、食欲は止めどもなく歩を進ませた。
暴風雪と食欲の葛藤の末に、ある格言を思い出した。
“危険を冒せ。人生はすべてチャンスだ”
アメリカの作家デール・カーネギーが背中を押した。

最近、札幌駅北口エリアに惹きつけられる自分

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鮮度と旨味を打ち消すご飯の粘着。

鮮度と旨味を打ち消すご飯の粘着。

「祐一郎商店 札幌駅前通り店」2020年12月9日(水)

このまま春が来て欲しい。
仮に雪が降ったとしても薄らでいいから、このまま春が来て欲しい。
一方でこの季節の雪のない反動に、この街の市民は心の準備をしている。
必ず訪れるドカ雪の襲来にあらかじめ諦観しながら…

と言って、さすがにコートを着なければ薄ら寒い。
地下歩行空間に向かい、少し早歩きをして薄ら寒さを打ち消した。
人通りの少ない師走の

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都市の中に訪れた小さな森の安穏。

都市の中に訪れた小さな森の安穏。

「レストラン のや」2020年12月1日(火)

吹き荒ぶ風はまさに冬真っ盛りなのに、雪の降り積もらない日々が続く。
この積雪の少なさの反動は必ずやって来るという予感は、この街に住む者の暗黙の了解である。

それにしても、都心エリアは再開発という名の元に、破壊と創造が彼方此方で止むことなく繰り広げられている。
それは、未来の再々開発に向けて壊す前提で作っているようにも思えた。

札幌駅からひと駅の

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Just Like Starting Over.

Just Like Starting Over.

「らーめんサッポロ 赤星」2020年12月6日(日)

休日の時は短い。しかも、やけに疲れていた。
雪のない街に刺す陽光も実に弱々しい。
朝も昼もなく活字を追っていると、夕映えを兆す午後が訪れていた。
朝と昼と夜を兼ねた食を求めて街に繰り出した。

目当てにしていたラーメン店に、空腹によって辿々しい足を向けた。
が、小さな紙に臨時休業の文字が弱々しく風になびいていた。
かつてない不気味な現実がこの

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