自動販売機の変人テスト

私は、自動販売機を滅多に使わない。理由は単純。値段が高いからだ。外出するときはたいてい水筒を持参し、持っていないときは、より安く買えるスーパーなどで飲み物を手に入れるようにしている。

しかし、時たま、ちょっと自販機で買ってみようかなと思うことがある。暑い日に長時間屋外にいたときなどはそういう衝動に耳を傾けることもある。

まず自販機を眺める。どんな商品が陳列されているのか確かめる。ここで大抵、私は少し悩まされる。その悩みとは、一言で言えば、「安牌か、冒険か」というものである。

ここで言う安牌とは、水やお茶、スポーツドリンクといった、支払った金額分の仕事は確実にこなすと確信することができる飲料のことである。これらが置かれていない自販機はまず無いだろう。

その一方で、端の方をじっくり見ていくと、なにやら見慣れない飲料が置かれていることも少なくない。明らかに邪道。作る側もオフザケですよと開き直って作っている。そんな飲み物(?)である。

このような商品に対峙したとき、企業と消費者の立場の逆転が起こる。

通常、私達は、自分たちが好きな商品を選び、購入する。いつ飲んでも美味しいと思えるような商品は多く、長く売れる。このとき、消費者は商品、ひいてはその商品を作った企業を試す立場にある。

「この企業は私の好みにあった商品を作っているのだろうか。」「これからもこの商品を買い続けるべきだろうか。」こういったことを、無意識の内にであれ消費者は考えているのだ。

しかし、上記のような、アブノーマルな商品を目の前にしたときには、逆に、企業や商品がこちらを試している。

「お前は、これを買う勇気があるのか?」と。

上でも述べたが、企業は、そういった商品については、もはや売れなくてもいいと開き直っている節があると思う。そもそも大量に作ってもいないと思う。そうでなければ説明がつかない商品があまりにも多くあると感じるのは私だけではないだろう。

そのような開き直りがある以上、私達がその商品を買うとき、その選択の全責任は私の上にのしかかることになる。企業に買わされているのではなく、あくまで、私が”好き好んで買っている”のだ。

これは、企業が私達に対して行う、”変人テスト”だとも言える。

販売数のデータを持つ企業側は、国民の内、どのくらいの人数がこのテストを受け(商品を購入)、さらには合格(継続的に購入)したのかを知ることができる。

この合格が意味するところは言うまでもなく、その人が変人であるということである。売れると想定していない商品を継続的に購入し続けているわけであるから、当然、そう名乗る資格がある。

変人という言葉に気を悪くした読者もいるかもしれないが、変人とは一体どういう存在か、もう一度考えてみたい。

変人とは、この世にランダムさをもたらし、ありえなかったはずの結果を生み出す存在である。常識では考えられない行動を起こすことによって、常識では考えられない状態へと人々を導く存在である。そして、変人とはまた、何が自分にとって幸せなことかをこの上なく把握し、それに従って生きている存在である。

あなたはこれまでの人生で、いくつの変人テストを受け、合格することができただろうか。ちょっと少ないかも、と思う人は、次に自動販売機を見つけたとき、いつもは押さないボタンを押してみても良いのではないだろうか。

最後までお読みいただき、ありがとうございました!