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Re:脚本ユニット 一ノ瀬姉妹 ⒉美人姉妹 603字 全7話

「え。アレのどこがいいわけ?」
聞き覚えのある声に、純は高速で振り返った。
イベントが終わり観客のいなくなった座席のひとつに、伊織がちゃっかり座っている。

「てか、引きこもりはどーした」
「純ちゃんが言ってるだけだしー」
「もう、来るなら仕事してよ」
こっちは緊張のしっぱなしで、胃が痛いというのに。

「あんたのほうがビジュいいんだから」
「アイドル扱いされたらメンドーじゃん。余計な仕事増えるし、ダッサイ衣装着せられたりさ」
自己評価高すぎか。しかも、さすがのたくましい想像力。
「純ちゃん、敏腕感出てたー。かっこいい」
のんきすぎる相方に脱力してしまう。

***

それにしても、人込みが苦手な伊織が、繁華街の映画館に出没したことが信じられない。
「アイツの顔面を、この目で見てやろうと思って」
主演俳優のことらしい。
「純ちゃんが当て書きするくらい心酔するレベルは、いかほどかと」
プロデューサーの意向だと言っているのに。
ちなみに、感想は「しゅみワルー」だそうだ。

パンフレットにさっと目を通した伊織は、露骨に顔を歪めた。
「"女性ならではの視点で描く社会派作品”って、女はIQ低いくせに感がミエミエなんだよなー。これで宣伝してるつもりかっつの」
美人姉妹脚本家、というフレーズにも過敏に反応する。
「この制作会社、旧態依然としてんなあ」

"フラットな視点であぶり出す社会の矛盾”はお気に召したらしく、ふっふっふっと妙な笑いかたをしている。
他人のふりをしようかと純は思った。

(つづく)


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