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多様性と日本(3)多文化主義の類型

以前投稿した記事を誤って削除してしまいましたので、再度掲載しております。

多様性と日本(2)のつづきとなります。

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3.多文化主義の類型


(1)と(2)で確認したとおり、「多文化主義」は、国家が少数民族や移民などのマイノリティの文化的多様性を認める考えかたです。ですから、政策に結び付いてくるわけです。

関根さんは、オーストラリアをモデルとして、多文化主義政策には、1)異文化・異言語の維持と発展、2)移民・難民・マイノリティの社会・参加、3)ホスト国民への啓もうと宣伝の三つがあるとします。

具体的にみてみましょう。

1)が指すのは、外国人学校(エスニック・スクール)への公的財政援助や移住制限の撤廃などの政策です。

次に、2)にはホスト国の言語や文化について無償で教育サービスを行うことや公的機関で多言語出版物を配布すること、さらには永住者への選挙権の付与なども含まれています。

そして、3)には、公営多文化放送の実施や、一般の学校や企業での異文化間コミュニケーション教育・反差別教育などの実施も含まれます。

つまり、多文化主義という場合には、外国出身者なり、先住民なりに対して、公的に支援を行うという政策が採られているわけです。

ただし、多文化主義を採用する国家でも、その政策にはちがいがあります。関根政美さん(2000年)は、多文化主義政策のちがいに基づいて、以下のとおり多文化主義を分けています。

① シンボリック多文化主義
② リベラル多文化主義
③ コーポレート多文化主義
④ 連邦制・地域分権多文化主義

①シンボリック多文化主義は、「エスニック料理店が増えたり、年に数回の多文化フェスティバルなどの機会に民族衣装を着て踊りや歌などの伝統芸能を披露することは積極的に認めるが、それ以上の文化・言語の多様性を認めない。ほとんど同化主義に近いもので、リップサービス以上のものではないといえる」とされます。②リベラル多文化主義とのちがいは、政策上、移民や先住民族の集団が存在することすら想定していないということになります。関根さんは2000年の日本がシンボリック多文化主義に近いと述べています。

②リベラル多文化主義は、主流の国民以外の移民のコミュニティや先住民族などマイノリティの存在を認めるが、かれらが主流の国民社会の言語を使用し、その国の主流の市民文化(関根は欧米の自由や平等、民主主義などを想定している)、社会習慣に従うべきだとする考え方の段階にある場合をいいます。具体的には、マイノリティは、家やコミュニティではどんな言葉でも、どんな衣装を身に着けても、どんな食事をしようとも、どの宗教を信じてもよいが、学校や職場、政治など公的空間では、公用語を話し、その国の生活習慣などに従うことを求められるような政策が取られているとします。関根さんは、イスラム教徒の女学生がベールをかぶって登校することが問題視されるなどの事例などがある場合は、リベラル多文化主義に含まれるとします。

また、関根さんは、政府がマイノリティに対する差別は禁じているが、マイノリティに対する積極的な財政支援や法的援助は最低限である場合も、リベラル多文化主義と呼んでいます。たとえば、公用語を学ぶためには積極的に支援を行うが、民族学校への支援が抑えられている場合などが当てはまると考えられます。

③コーポレート多文化主義は、差別を禁止するだけでなく、差別を積極的に是正し、マイノリティが社会に参加しやすくすることを目的とした政策が実施される国家にあてはまるとされます。コーポレート多文化主義では、就職や教育の場面で、人口に応じた配慮がなされる政策などがみられます。たとえば、大学入試でそれぞれの所属する集団によって合格点が異なるという措置もあります。また、同時に政府が多言語・多文化教育などを積極的に進めているということも、コーポレート多文化主義の事例といえます。関根さんは、その代表的な国といえるのは、カナダとオーストラリアとする。

④連邦制・地域分権多文化主義は、地域ごとに人種、民族集団のすみわけがみられる場合に適応される状況、あるいは政治体制が採られている場合を指しています。関根さんは、連邦制多文化主義を、各地域のそれぞれの言語、習慣を維持しつつ、同時に政治的に統合する手段と定義づけています。典型例としては、スイスをあげています。スイスは、カントンと呼ばれる州からなる国家で、それぞれのカントンが公用語を定めることも認められています。

カントンの中には、ドイツ語を公用語とする場合、フランス語を公用語する場合、あるいはドイツ語・フランス語・ロンマンシュ語を公用語とする場合などがあります。

スイスはまたドイツ語、フランス語、イタリア語、ロンマンシュ語を国の公用語と定めています。スイスにおいては、おおむね言語集団ごとにカントンと呼ばれる州[1]が形成され、それが国家として統一できるような政策をとっている国といえます。

また、関根さんは、それぞれの地域の民族や文化に配慮して、分権自治を保障している場合を、地域分権多文化主義と呼んでいます。一民族に対して自治区などが設けられている、カナダのイヌイットの事例をあげています。

ところで、関根さんは以上の4つ以外に、二つの多文化主義が存在するとしています。しかしながら、それはいずれも多文化主義というよりは、国家における社会的分断状況を示しているというものであって、国家の政治思想でも政策でもないようにみえます。そこで、ここでは、1)分断的状態、2)分離・独立主義的状態として紹介しておきます。

1)分断的状況は、多文化主義を求めて、マイノリティとマジョリティ双方が対立して相いれない状態になっていることを指します。マイノリティは独自の生活を望み、マジョリティの文化や言語、生活様式を否定しており、マジョリティは自分たちの立場が弱められていると警戒しています。つまり、社会の中で自分の帰属をめぐって対立が存在する状態を指します。関根は、リベラル多文化主義やコーポレート多文化主義の国の中でも、マイノリティが不満を持ち、過激な運動などを行っている状態を想定しています。

また、2)分離・独立主義的状況は、マイノリティが多文化主義を求めて、分断的社会の緊張が高まり、国家が分裂した状況を指します。関根は、旧ユーゴスラビアの事例を示すしています。旧ユーゴスラビアの事例については難民などの問題とも関連しています。関心のある方はぜひインターネットなどで概要を確認していただければと思います。

(4)につづく


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