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読書感想 夏目漱石 変な音

夏目漱石の短編小説です。

主人公が入院したときに聞いた、隣の部屋から聞こえる「変な音」のお話です。
その音は、大根をするような音でした。病室では炊事割烹、菓子まで禁じられているのに、何故こんな音がするのだろう?と主人公は不思議に思うのですね。

主人公は回復し退院しますが、三ヶ月後に再び入院します。
その時に、隣の部屋の患者に付き添いをしていた看護婦から、「変な音」の正体をきくのです。

隣の部屋から聞こえた大根おろしをするような音は、きゅうりをする音でした。火照る足をきゅうりの汁で冷やそうと、看護婦がこしらえていたのですね。

逆に、隣の患者は毎朝きこえる主人公の髭剃りの音を、「あれはなんの音だろう?」と気にしていたのです。隣の患者は、元気そうな主人公は毎朝健康器具?か何かで運動しているのだろうと思い、羨ましがっていたのです。
隣の患者は退院後間もなく直腸がんで亡くなったのでした。


物語の最後はこうなっています。
「自分は黙然(もくねん)としてわが室に帰った。そうして胡瓜(きゅうり)の音でひとを焦らして死んだ男と、革砥(かわど)の音をうらやましがらせて快くなった人との相違を心の中で思い比べた」

この作品は夏目漱石の実体験がもとになっているのでしょうか?

短い小説なのですが、すごく心に残りました。

主人公の、神経が研ぎ澄まされた状態が伝わってきてくる感覚があります。
普段ならそれほど気にならない事が、妙に心に突き刺さるというか、心の隙間に入ってくるというか、そういう時ってありますよね。

病気や怪我で心と体が弱っていて、なおかつ拘束されて閉鎖的な環境に身を置かなければならない時。
そりぁーあ、普段は気にならない事が気になったりしますよね。そして、普段は考えないことをあれこれ考えたりしますよね。

病院は、どうしても色々な思念が渦巻いてしまう場所だと思います。 
そんな場所こそ、明るい笑顔と優しいまなざし、思いやりのある言葉がけが大切ですね。

明るい笑顔は、邪気を吹き飛ばすと私は本気で思います。







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