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【Epi-01】 ちょっと特別だったvol.019、その理由は。

 いよいよインタビュー本番で伺っていた、本紙未掲載エピソード…を期待していた方、すみません。今回は閑話休題、編集後記です。

 よく読者の方に聞かれる質問のひとつに「どうやって取材する人を決めているのですか?」というものがあります。もちろんいろいろなケースがありますので、それぞれの取材に至る経緯などを知ってもらうのも面白いと思うんですよね。その上で本紙をあらためて読んでいただけると、また新たな気づきや感じ方があるんじゃないかなと。

 さて、vol.019の編集後記です。noteを読んでいただければおわかりのように、この取材はかなり打ち解けた間柄で行われていました。その背景となる生駒さんと知り合ったきっかけや、取材に至る経緯、実際に取材を始めてから終わるまでに感じたことなどを綴っていきます。


 「gente vol.019」はこれまでの号とは一線を画した、ちょっと特別な号になりました。それは編集部にとっても、これを書いている僕、編集長の大澤にとっても、です。
 「gente」のメインコンテンツはインタビューですから、そこにあるのは取材を受けてくださった方のリアルストーリー。なのでどの号もオンリーワンで、どれに対してもそれぞれ違った思い入れを持ってはいるのですが、そうであっても僕は「vol.019には他の号と異なる要素がふたつある」と考えていて、そのひとつは僕と生駒さんが以前からの知り合いだったということ。
 生駒さんと知り合ってvol.019発行に至るまでには約一年半の期間があって、その間の出来事や感情の動きはこのvol.019を作るアプローチに少なからず影響していますし、僕個人としては出来上がったものを読むのにも、どうしても他の号とは異なる感傷を禁じ得ないのです。

【そもそものきっかけは】

 知り合った当初は、まさか生駒さんを取材することになろうとは思いもよりませんでした。前号vol.018で取材したおにっちさんも取材前からの知り合いだったと言えますが、おにっちさんの場合は出会った当初から「いつか取材したいかな」と思っていたし、初めてお会いしてから約3年ほどはSNS上だけのつながりだった上にやりとり自体もほぼなかったのに対し、生駒さんとは知り合って以降コンスタントに接点があったので、僕にとって「知り合いを取材した」という感覚は生駒さんが初めてなんです。

 2021年の夏、ミライロハウスTOKYOに「gente」配架のお願いに行った際、そこにいたのが生駒さんでした。が、主に会話をしたのはもう一人いた別のスタッフの方で、生駒さんとはほとんど言葉を交わしていません。にも関わらず「あの時いたの、生駒さんだったよね」と振り返って思い出せるほど生駒さんのことを覚えていたのは、見た目のおかげです。照明の当たり方で髪色がほぼ金髪に見えて「派手めな外見の人もいるんだな、さすが今どきのダイバーシティ&インクルーシブ情報発信拠点」なんて思った記憶がありますが、その時はまだお名前すら知りませんでした。
 無事ミライロハウスTOKYOに「gente」を置いてもらえることになったのがきっかけで、その時点での最新号だったvol.013のLISA13さん(※1)のインタビュー動画をミライロハウスTOKYOで撮りませんか?という話があがったのですが、そこでLISA13さんへの聞き手として名前が挙がったのが生駒さんでした。ですが実際にはその後企画は別の形になってしまい、LISA13さんとは一度打ち合わせをしたものの、結局生駒さんが聞き手になる事はありませんでした。とはいえそこで接点が出来、結果としてその企画が流れた事によってこの取材へと導いてくれたのですから、つくづく何がどう影響するのかわからないものだなと。

(※1:vol.013にて取材した、先天性右手首欠損の義手ギタリスト。その後パラリンピック東京大会閉会式にてギター演奏を披露、ヘラルボニーのDISNEYコラボモデルを務めるなど活躍の場を広げています)

 接点が出来たことで生駒さんがアルビノでロービジョンであると知っても、ピンとこなかったというのが正直なところです。それまでにも取材を通してアルビノの方をお見かけしたことは何度かあり、どの方も髪色が真っ白でひと目でそれとわかる外見をしていたのですが、生駒さんは「多少髪色が明るく派手目に見えた」くらいなところで既存のイメージからはだいぶ離れていたし、ミライロハウスTOKYOで会う生駒さんの様子からは、彼女が見えにくさを抱えているとは感じられませんでしたから。なので生駒さんがピアノ調律を学んでいると聞いた時も、「細かい作業があるはずだけど、見えにくくて出来るものなのかな?」と思うと同時に「それが出来るくらいの見え方なんだろう」と、勝手に納得していたのですが…。(見え方と調律についてのインタビューは後日公開しますので、お楽しみに)


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【はじめは「取材する側」だった】

 前述の動画企画は別の形になって公開されたものの、当初の企画は「同世代で障害当事者であるお二人が「gente」の感想を通して対談する」というもので、どんな話になるのか実は僕自身が一番楽しみにしていました。その企画をあきらめきれない気持ちを持ち続けていた僕は、「じゃあ独自でそれやっちゃおう」と考えてお二人に声をかけ、2021年の暮れにLISA13さんと生駒さんの対談をインスタLIVEとYOUTUBEで配信したのですが、実はこれが初めて「生駒さんも当事者なんだなぁ」と感じた瞬間でした。当事者お二人の対談、と銘打って実施したのにも関わらず、なんですけどね。
そのアーカイブがこちらです。

 いざインスタLIVEが始まると、はじめはやや緊張した面持ちの生駒さんでしたが、年齢も近いうえにジャンルは違えど音楽という共通点のあるお二人。すぐに緊張も解けて、生駒さんが記事から何を感じたのかが少しずつ垣間見えてきたのですが、そこで出てきた「買ってから考えるのが当たり前じゃないかな、って思いました」というひと言に、ドキッとさせられました。

 お手元にvol.013がある方はぜひ開いてみてください。LISA13さんが初めてギターを買った時の「お年玉でギターを買ったけど、買ってからどうやって弾こうか?って考えたんです」というエピソードがあるのですが、僕が初めてその話を聞いた時は「えっ?」と思いました。
 だってギターを弾くにはピックを持たなきゃならないわけで、失礼ながらそんなのわかりきってるでしょ、なんで先に考えておかないの?とツッコみたかったのをよく覚えています。でもLISA13さんはそうではなくて、やりたいからギターを買った、やり方は後で考えればいいし、できないとは思っていなかった、とそういう人で。へぇーなるほどな!と、あの取材ではかなり印象的だったそのやり取りを、生駒さんも「私も買ってから考えるのが当たり前じゃないかな、って思いました」と言うのです。

 その時すぐに「何故そう考えるのか」を理解することは、僕にはできませんでした。ただパッと頭に浮かんだのは「それって何か当事者同士のシンパシーというか、そういうものがあるのかな」ということ。当事者同士だからわかる、なにか僕には踏み込めない領域というか、感覚のようなものがあるのかな、という風にも感じたんですよね。もちろん「壁を感じる」とかそういう事ではないですし、生駒さんも「あ、別に批判してるとかではないですよ」とは言っていたんですけど。とにかくこのひと言を聞いてから、生駒さんに対して「そうは見えないけど、やっぱり生駒さんも当事者なんだな」という認識がそれまでより強まったのは確かなんです。けど一方で、相変わらず普段の様子からは生駒さんが見えにくさを持っている、と感じるシーンはなく。頭ではわかっているけど接していると感じない、そんな状況がまだ続いていました、年が明けてもしばらくは…。(続きます)


今回はここまで。
次回は本紙未掲載インタビューに戻ります。
いよいよインタビューの本番を迎えて本紙掲載の話に至るのですが、学校生活の話や調律を学ぶ上での出来事など、掲載しきれなかったエピソードの中にも様々な気づきがありました。
4月上旬更新予定
【11月24日/インタビュー「学校生活、体育と外遊び」へ続きます】

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