疋田文明

「経営ジャーナリスト」と検索してください。トップに表示されるのが私です。  1986年…

疋田文明

「経営ジャーナリスト」と検索してください。トップに表示されるのが私です。  1986年の独立以来、ひたすら経営の世界を取材してきました。経営の現場は知恵の宝庫です。そうした活動の成果を活かすべく、いまは元気印企業が増えることを願って『元気塾』を中心に活動しています。

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  • 経営に生かしたい先人の知恵

最近の記事

経営に活かしたい先人の知恵…その35

◆窮地の時、トコトン考えれば道は開ける◆  中国古典『春秋左氏伝』に、「安きにありて危うきを思え。思えばすなわち備えあり。備えあれば患いなし」とある。本稿その9で、私は、この教えを引用して、いい時に危機意識を持つことが大事だと書いたが、これは本当に難しいようだ。順調な時ほど仕事量が多いだけに、当座の仕事をこなすことを優先せざるを得ない。また、現状の仕事を片付ければ収益が確保できるだけに、来たるべき危機に備えるという意識が薄くなってしまう。  しかし、いい状況が長く続かない

    • 経営に活かしたい先人の知恵…その34

      ◆変化に対応した者が生き残る◆   中国の古典『易経』に、「そもそも幾(きざし)とは、事のはじめの微かな動きであり、結果の吉兆をまずもって示唆する前兆である。君子はその幾を見て措置を講じ、日を終えるのを待たずしてこれを実践に移す」と記されている。  紀元前221年、秦を建国した始皇帝は、自らを朕と称しているが、この朕という言葉には〝兆し〟という意味も含まれており、まさに兆しを見つけて手を打つことが、トップの成すべきことと言えよう。この中国古典の教えは、経営で最も重要とされて

      • 経営に活かしたい先人の知恵…その33

        ◆近き者喜べば、遠き者来る◆  優秀な人材は、どのようにすれば応募してくれるのか…。まずは、『論語』の教えを紹介しよう。  葉公が政治のやり方を尋ねた際、孔子は「近い者が喜ぶような政治をすれば、遠方の者まで懐いて来るものです」と答えた。  政治についての問答だが、経営にも通じる教えだと、私は思っている。ここ数年、日本では初任給を上げる企業が増えてきた。働く人たちの所得が増えることは、日本経済のためにも歓迎すべきことだが、既存社員の給与も合わせて引き上げなければ、上手くいく

        • 経営に活かしたい先人の知恵…その32

          ◆「一張一弛」のススメ◆  20世紀最高の経営者と言われたウェルチ氏は、経営で一番難しいのは「人のマネジメント」だと指摘している。どういうマネジメントをすれば、従業員は持てる能力を発揮できるのか。厳しくすることがいいのか、優しく接することがいいのか。  ここで参考にしたいのが、孔子の「水、いたって清ければ、すなわち魚なく、人、いたって察すれば、すなわち徒(なかま)なし=一点の誤りもないように厳しくチェックしていては、仲間は増えない」という教えだ。人のマネジメントにおいても、

        経営に活かしたい先人の知恵…その35

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        • 経営に生かしたい先人の知恵
          34本

        記事

          経営に活かしたい先人の知恵…その31

          ◆過ぎることの弊害◆  『論語』に「過ぎたるは、なお及ばざるが如し=何事も、過ぎることが間違いなら、及ばないことも間違いである」とある。  儒教が理想とする「中庸=過ぎることもなく、及ばぬこともなく、終始偏らない」の教えが、先の言葉に集約されているが、これほど難しいこともないと、孔子は指摘している。私はこの教訓が、人生を歩むに際しても、また経営の実践面においても、実に示唆に富んだものであると考えている。  日本企業の生産性が低い要因のひとつに、過剰品質、過剰サービスが挙げ

          経営に活かしたい先人の知恵…その31

          経営に活かしたい先人の知恵…その30

          ◆志が人と組織を成長させる◆  中国の歴史書『後漢書』に、「志ある者は事遂に成る=固い志のある人は、どんな困難があっても必ず成し遂げる」とある。なぜ志があれば、事を成し遂げることができるのか? その答えとして、『孟子』の次の一節を紹介する。「心の働きである志というものは、気力を左右するものであり、気力は人間の肉体を支配するものである。だから志がしっかりと確立すれば、気力はそれに従ってくるものだ」。  気力が出てくれば、我慢強く取り組むことが可能になり、結果として事が成就す

          経営に活かしたい先人の知恵…その30

          経営に活かしたい先人の知恵…その29

          ◆リーダーに求められる人間洞察力◆  リーダーには「人物を見抜く洞察力」が必要だと、多くの識者が指摘している。では、どうすれば人間の本質を見抜くことができるのか。これについては、古来中国でも大きなテーマになっていたようで、様々な考察がなされてきた。  「官吏の人物を知るのは、明知です。そのためには、大いに勉強しなければなりません」(『書経』)。  知識を蓄積し、判断力を身につけなければ、人間の本質を知ることはできないと考えればいいだろう。  孔子の教えも参考になる。「人

          経営に活かしたい先人の知恵…その29

          経営に活かしたい先人の知恵…その28

          ◆失敗を恐れてチャレンジしないことが最大のリスク◆  「虎穴に入らずんば、虎子を得ず=危険を犯さなければ、大きな利は得られない」(『後漢書』)。  中国・後漢時代の名将・班超の言葉だが、リスクテイクする覚悟がなければ、大きな成果が得られないのは企業経営も同じだ。  1986年4月、私は「アメリカニュービジネス視察団」に参加する機会を得た。当時、日本ではニュービジネスブームで、新規事業先進国・アメリカに学ぼうとの主旨で企画されたツアーだった。ロサンゼルスで、ニュービジネスを

          経営に活かしたい先人の知恵…その28

          経営に活かしたい先人の知恵…その27

          ◆チームプレーについて考える◆  『易経』に、「甲乙の二人が、本当に同心一体になれば、その鋭利さは、固い金属をも断つことができる」とある。これは「断金の交わり=固い友情」の語源であり、どんな優秀な人間でも個人の能力には限界があって、それを打破するのがチーム(組織)の力なのだと、解釈すればいいだろう。  私が信奉する経営思想家、ミュラータイム氏も同様の指摘をしている。「それぞれが50キロの力を持っているとすると、一人では50キロの石しか動かせないが、二人が同時に力を合わせれば

          経営に活かしたい先人の知恵…その27

          経営に活かしたい先人の知恵…その26

          ◆人に責任を求めてはならない◆  「善く戦う者は、これを勢いに求めて、人に責(もと)めず=戦上手は、勝敗の要因を、集合体としての軍隊の勢いに求めて、兵士個々人の戦闘能力には求めない。つまり、個々の兵士よりもむしろ軍全体の勢いを重視するのである。勢いに乗れば、兵は坂道を転がる丸太や石のように、留めようのない力を発揮する」(『孫子』)。  企業社会では、何か問題が起きると、個人の責任を問うことが多い。孫子はそれを戒めているのだが、同様の指摘をしているのが、制約理論で知られるエリ

          経営に活かしたい先人の知恵…その26

          経営に活かしたい先人の知恵…その25

          ◆感情をコントロールする術◆  孔子の編とされる『礼記』に、「感情の赴くまま、直ちに行動に移すのは野蛮民族のすることで、修養のある人の成すべきことではない」とある。  また『孫子』は、「一国の君主たる者、一軍の将たる者は、怒りによって兵を起こしてはならぬ。戦いの結果が利益をもたらすかどうかという客観的判断に立って行動すべきである。怒りは、時が経てば喜びにも変わるだろう。だが、国(会社)は亡んでしまえばそれでお終いであり、人は死ねば生き返らない。この故に、名君名将は慎重の上に

          経営に活かしたい先人の知恵…その25

          経営に生かしたい先人の知恵…その24

          ◆目先の利益に目を奪われると組織は長く存続できない◆  経営者(組織のトップ)は、利益とどう向き合えばいいのだろうか?  まずは、「利」についての中国の先人の教えを紹介したい。  「道理に背いて手に入れた財宝は、また道理に背いて出ていくものである」(『大学』)。  「成功を急ぐな。目の前の小利に惑わされるな。成功を急ぐと息切れがする。小利に惑わされると、大きな事業はできぬものだ」(『論語』)。  「義を先にして利を後にする者には栄えあり、利を先にして義を後にする者に

          経営に生かしたい先人の知恵…その24

          経営に活かしたい先人の知恵…その23

          ◆人的資本経営実践のススメ◆  中国の古い教えに、「実に恐るべきは民であります。舟を載せ浮かべるのも水であれば、船を転覆させるのも水であるように、君(トップ)を立てるのも君を滅ぼすのも民(組織の構成員)であります」(『貞観政要』・魏徴)、とある。  これは、あらゆる組織に通じる真理と言える。現場で働く人たちの支持を得られなければ、組織の将来はない。それだけに、多くが社員を大切にすると言う。しかし、心の底からそれを実践しているトップはどれぐらいいるのだろうか?以下のドラッカー

          経営に活かしたい先人の知恵…その23

          経営に活かしたい先人の知恵…その22

          ◆有能なリーダーと無能なリーダーの違いはどこに◆  有能なリーダーの共通点として、より多くの人の声に耳を傾けるということが挙げられる。  唐の二代目皇帝太宗が、側近の魏徴に「どのようなのを明君(優良なリーダー)、どのようなのを暗君(無能なリーダー)というのであるか」と聞いた際の答えは、次のようなものだったと『貞観政要』に記されている。  「多くの人の意見を聞いて(兼聴)、そのよいものを用いるのが明君であります。逆に、一方の人の言うことだけを信じる(偏信)のが暗君であります

          経営に活かしたい先人の知恵…その22

          経営に活かしたい先人の知恵…その21

          ◆上意下達型組織の弊害◆  昨年の話で恐縮だが、「経営層が若手社員に教えを請うリバースメンタリングが最近広がっている」(日経新聞2023年3月29日夕刊)との記事があった。そこには「新発想で下意上達に」とのサブタイトルがつけられていた。  大企業や有名大学のスポーツクラブで不祥事が次々と起こった数年前、盛んに上意下達型組織の弊害が指摘されたものの、現状なかなか是正されているとは言えない。その反省もあってか、下意上達に目が向くようになったのだろうが、「今さら」という気がしない

          経営に活かしたい先人の知恵…その21

          経営に活かしたい先人の知恵…その20

          ◆忖度が組織を滅亡させる原因となる◆  帝王学の書として知られる『貞観政要』に、「個人的に不和となることを避けたり、相手の面目を失わせることを気の毒に思って、明らかに非であることを知っても正すことをせず、そのまま施行するものがある。これは大きな弊害を招き、組織を滅亡させる原因となる」(唐二代目皇帝太宗)とある。忖度して、言うべきことを言わない風潮が広まると、組織は滅亡に向かうとの指摘だ。  昨年から問題になっているトヨタグループの相次ぐ不祥事の原因も、「忖度」にあると私は考

          経営に活かしたい先人の知恵…その20