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経営に活かしたい先人の知恵…その29

◆リーダーに求められる人間洞察力◆


 リーダーには「人物を見抜く洞察力」が必要だと、多くの識者が指摘している。では、どうすれば人間の本質を見抜くことができるのか。これについては、古来中国でも大きなテーマになっていたようで、様々な考察がなされてきた。

 「官吏の人物を知るのは、明知です。そのためには、大いに勉強しなければなりません」(『書経』)。

 知識を蓄積し、判断力を身につけなければ、人間の本質を知ることはできないと考えればいいだろう。

 孔子の教えも参考になる。「人間は、その行なっているところを視、その由来するところを観、その安んじているところを察すれば、その性質は隠そうと思っても隠せるものではない」(『論語』)。

 その人物像を理解しようと思えば、まずはどういう行動を取っているのかを見極める必要がある。ただし、どれほどよい行ないをしていても、その動機に問題があれば、評価はできない。また、動機が善であったとしても、それだけで判断してはいけない。成功を手にした後、どのような行動を取るのか。傲慢になってしまうのか。逆に驕り高ぶることなく、より社会のために貢献するのか。そこまでの有り様を見極めることができれば、その人物の本質が理解できると孔子は指摘しているのだ。

 孔子も最初から、成功した後の態度まで観察していた訳ではなく、段階を踏んで、このような考えに至っている。最初は言葉だけを聞いて、その人物を判断していたが、ある事件がキッカケで変わったという。

 ある時、孔子の弟子・宰予が怠けて昼寝をしていた。その姿を見て孔子は考えを変えたのだ。「腐った木に彫刻はできないし、ごみ土を重ねて作った垣根に上塗りはできない。宰予をしかっても意味がないので諦めた。以前の私は、言葉を聞いて、それが実行されていると信じていた。しかし、怠けて昼寝をする宰予を視て、考えが変わった。言葉を聞くだけでなく、行動まで観察するようになったのだ」(『論語』)。

 どんな組織にも、口は達者だが、行動が伴わない人間がいる。言葉だけでは信用ならないので、孔子は行動まで視るようにしたが、それでも、それだけではその人間の本質が掴めないと分かり、動機まで観て、さらには成功した後まで察するようになったのだった。ちなみに「片手に論語、片手に算盤」を振りかざすことで、企業人として大成功した渋沢栄一氏は、孔子の「視・観・察」の三段階による人物鑑定法は、まことに的を射ている、と書き残している。

 ビジネスにおいては、『ハ―バードでは教えない実践経営学』の著者マーク・マコーマック氏の、相対する人物の本性・性格を見抜く術も参考になる。

 「人の本質や本当の自己は状況によって変化するものではない。だから、相手を知れば知るほど相手の心の内が分かるし、いかなる状況でも相手の答えや反応をより正確に予測できるようになる。まず、先入観を持たずに、相対する人間の行動を観察すればいい。人の何気ない行動には、その人の素顔がはっきり現れる。そして、洞察を得るには、感覚を全開にし、自分はできるだけしゃべらず、相手の話に耳を傾けることが必要だ。相手をよく見て、相手の話を聞くけで、あなたは自分が知らなければならないことのほとんどを、そして相手があなたに知らせたくないことも知ることができる」。

 相手を観察し、相手の声に耳を傾けることで「人物を見抜く洞察力」は身につくと理解したい。

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