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経営に活かしたい先人の知恵…その30

◆志が人と組織を成長させる◆


 中国の歴史書『後漢書』に、「志ある者は事遂に成る=固い志のある人は、どんな困難があっても必ず成し遂げる」とある。なぜ志があれば、事を成し遂げることができるのか?

その答えとして、『孟子』の次の一節を紹介する。「心の働きである志というものは、気力を左右するものであり、気力は人間の肉体を支配するものである。だから志がしっかりと確立すれば、気力はそれに従ってくるものだ」。

 気力が出てくれば、我慢強く取り組むことが可能になり、結果として事が成就すると考えればいいだろう(本稿…その6参照)。

 ソフトバンクグループを率いる孫正義氏の座右の銘は、吉田松陰の教え「志定まれば、気盛ん」だと聞くが、その原典も『孟子』にある。孫氏のあのバイタリティーの強さは、志が定まっていることに起因していることは間違いない。

 では、志とは一体どういうものなのか。広辞苑には、「①心の向かうところ ②心の目指すところ」とあるが、簡潔に、「心に思い決めた目的・目標」と考えればいいだろう。

 ちなみに、孔子は弟子の子貢に、「先生の志は」と問われて、こう答えている。「老人たちには安心されるように、友たちには信ぜられるように、若者には慕われるようになることだ」。

 昨今、「企業の存在意義」や「事業の目的」を意味する「パーパス」という言葉が、ビジネスの世界で頻繁に用いられているが、何も横文字で説明する必要はない。東洋で従来から使われている「理念」や「志」。これらがしっかり定まっていれば、人と組織は成長すると私は考えている。

 しかし、人にしても組織にしても、最初から「志」を定めて行動するわけではない。人生を送るにつれ、組織活動を続けていくにつれ、「志」を持つようになっていくと考える。

 例えば、中国・漢の建国者・劉邦は、若い頃は傲慢で無頼漢的なタイプだったようだが、秦を打ち倒し、天下を統一するという「志」を得てからは、傲慢さが影を潜め、部下の声に耳を傾け、部下を活かして用いるようになったとされる。

 私が20代後半に出会い、大きな影響を受けたサンエー(沖縄県、プライム上場)の創業者・折田喜作氏は、まさに「志」を原動力に、自身と会社を成長させた経営者だった。1950年、代用教員を辞めて、宮古島で小さな雑貨店を始めた折田氏には、「志」と呼べるものはなかったという。それが事業を始めて10数年後には、レジを女性店員に任せるようにし、自身は小売業の勉強に取り組むようになっていったが、その理由を次のように教えてくれた。

 「レジを女性店員に任せるようにすると奇異な目で見られた。当時の宮古島では、レジの管理をすることが経営者の仕事との考えが常識で、それを縁も所縁もない従業員に任せるなど、とんでもない!という時代だった。しかし、レジを主人が見ている限りにおいては、多店舗化もできず、企業としても成長できない。私には、『沖縄本島に出る』『沖縄を代表する小売業を自分の手で育てあげたい』という『志』があったから、そんな些細なことに囚われる気はまったくなかった」。

 沖縄県でしか店舗を展開していないサンエーは、目立つ存在ではない。しかし、流通業では群を抜いた好業績企業だ。折田氏が亡くなって30年近くなるが、氏の「志」は今尚受け継がれ、それが同社成長の原動力になっている、と私は思う。ちなみに、2024年2月期決算におけるサンエーグループの売上は、2101億9千万円。経常利益は168億9千万円であることを紹介しておく。

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