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経営に活かしたい先人の知恵…その26

◆人に責任を求めてはならない◆


 「善く戦う者は、これを勢いに求めて、人に責(もと)めず=戦上手は、勝敗の要因を、集合体としての軍隊の勢いに求めて、兵士個々人の戦闘能力には求めない。つまり、個々の兵士よりもむしろ軍全体の勢いを重視するのである。勢いに乗れば、兵は坂道を転がる丸太や石のように、留めようのない力を発揮する」(『孫子』)。

 企業社会では、何か問題が起きると、個人の責任を問うことが多い。孫子はそれを戒めているのだが、同様の指摘をしているのが、制約理論で知られるエリヤフ・ゴールドラット氏だ。

 「人を責めても、問題の解決にはならない。人を責めると、間違った方向にいってしまう。正しい方向からどんどん遠ざかってしまって、よいソリューションなんか見つからなくなってしまう。もし、その人を排除することができたとしても、ほとんどの場合、本当の問題は残ったままになる。人を責めるのは、火に油を注ぐようなもので、関係をわざわざ悪くするようなものだ。調和など保てるわけがない」(『ザ・チョイス』)。

 ゴールドラット氏は、「全体最適理論」の提唱者でもあるところから、この言葉は、組織全体で勢いを生み出すことを考えるべき、との指摘と受け取れる。「全体最適理論」についての、ゴールドラット氏の説明は以下の通りだ。

 「全体最適の理論は、それぞれの強度にバラつきのある輪がつながっているチェーン(鎖)によく例えられる。その中で一番弱い輪こそが、チェーン全体の強度を決めている。ここが全体の制約となっているのである。当たり前のことだが、その制約部分の強度を上げることが、チェーン全体の強度を上げることになる。一方で制約以外、つまり非制約のそれぞれの輪の強度をいかに上げようとも、この一番弱い輪の強度が上がらない限り、全体としてのチェーンの強度は高まらない。組織も同じである。『繋がり』と『バラツキ』がある中で活動しているのであれば、『みんながそれぞれ一生懸命頑張れば、頑張った分だけ全体として成果がもたらされる』と考えること自体に、誤った思い込みがあるのだ。つまり、非制約部分の改善努力をいくら行っても、ほとんど全体としての成果に結びつかないことになる」。

 企業には、いくつかの部門があるが、それらは独立しているわけではなく、相互に作用することで、仕事は遂行されていく。企業の強さは、最も弱い部門に制約されていると考えれば、限られた経営資源は、全体最適を考慮して配分していかなければならない。

 ところが、一般的な企業では、部門ごとで最適なシステムを考える傾向が強い。経理・営業・生産が、それぞれで最適のシステムを構築するとしよう。与信管理を考えた場合、経理は厳しい審査基準を設けがちになるが、厳しすぎると営業は新規顧客を獲得することが難しくなってしまう。営業が無理な受注をすると、工場は対応できなくなってしまう。もちろん、逆のケースもある。要するに、部分最適の組み合わせは全体最適にはならないということだ。

 組織力を強化したいと考えるのなら、是非とも「相手の立場に立って考える」ことのできる社員を育ててほしい。工場内でなら、前工程は後工程の立場に立って、社内全体でなら、工場の社員は営業の立場、営業の社員は工場の立場、経理は営業、営業は経理といった具合に、相手の立場に立って考えられる社員が育てば、間違いなくその会社の組織力は高まっていく。

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