経営に活かしたい先人の知恵…その34
◆変化に対応した者が生き残る◆
中国の古典『易経』に、「そもそも幾(きざし)とは、事のはじめの微かな動きであり、結果の吉兆をまずもって示唆する前兆である。君子はその幾を見て措置を講じ、日を終えるのを待たずしてこれを実践に移す」と記されている。
紀元前221年、秦を建国した始皇帝は、自らを朕と称しているが、この朕という言葉には〝兆し〟という意味も含まれており、まさに兆しを見つけて手を打つことが、トップの成すべきことと言えよう。この中国古典の教えは、経営で最も重要とされている、「変化対応能力」にも通じる。
ドラッカー氏が、プロの経営者として高く評価したスローン氏は、その著書『GMとともに』の中に、「変化に対応する具体的方法を持っていなければ、どのような組織も叩き潰されてしまう」と書いているが、まさにその通りで、GMは変化に対応できずに、1990年代に危機的状況に陥ってしまった。
経営学者のセオドア・レビット氏もまた、「変化への対応と適応が唯一生存への道」と語っているが、同じ趣旨の発言を残した先達の経営者は、日本にも数多くいる。変化に対応することがなければ、企業の未来はないのだ(本稿・その13参照)。
ではどうすれば、変化対応能力は身につくのだろうか。変化とはどのようにして起きるのだろうか。自然界には「突然変異」という現象があり、ある日突然起こるかのように思いがちだが、それは違う。レビット氏は、その著書の中で、ミクロ経済学の父アルフレッド・マーシャル氏の「自然は飛躍しない」という言葉を紹介した上で、次のような指摘をしている。「変化は多いが、変化しないことはもっと多い。未来は否が応にも現在を土台に紡がれていく」。
要するに、変化は突然やってくるものではなく、現在を基点に紡がれるものであり、必ずその兆候がある。まず兆候を見つけなければ、変化に対応することはできないのだ。そして兆しを見つけるには、観察の他ないだろう。観察によって、小さな変化の兆しに気づいたなら、次になぜそうした変化が起こったのかの分析に移る。原因が明確になれば、その対応策も見えてくるのだ。
名探偵シャーロック・ホームズの推理方法も、まず観察からスタートしている。ホームズは、「観察と分析の訓練を積んだ人の目をごまかすことはできない」(『緋色の研究』)と話しており、観察力と分析力は、経営の世界でも大いなる武器となることを明らかにしている。
物事の変化の兆しを見つけたのなら、次には想像力を働かせなければならない。何が原因で、そうした変化が起こるのか。また、その変化が自分たちの組織にどのような影響を与えるのか……様々な要因を組み合わせて、想像力を働かせ、何をやるか、やらざるか、決断するのがトップの仕事だと言える。
最後に、『種の起源』の著者・ダーウィン氏のかの有名な言葉を付記しておきたい。「生き残る種とは、最も強い者ではない。最も知的な者ではない。それは、変化に最もよく適応した者である」。