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経営に活かしたい先人の知恵…その31

◆過ぎることの弊害◆


 『論語』に「過ぎたるは、なお及ばざるが如し=何事も、過ぎることが間違いなら、及ばないことも間違いである」とある。

 儒教が理想とする「中庸=過ぎることもなく、及ばぬこともなく、終始偏らない」の教えが、先の言葉に集約されているが、これほど難しいこともないと、孔子は指摘している。私はこの教訓が、人生を歩むに際しても、また経営の実践面においても、実に示唆に富んだものであると考えている。

 日本企業の生産性が低い要因のひとつに、過剰品質、過剰サービスが挙げられる。クライアントが要望するレベル以上の品質を求めて、コストを掛けることほど無駄なことはない。日本人の得意とされる「おもてなし」にしても、対価以上のサービスを、時間とお金をかけて提供するのは考えものだ。

 顧客満足度を高めるためには、クライアントが期待する以上の製品なりサービスを提供すべきではあるが、コストを掛けた上での過剰な品質、サービスは、収益を低下させることになる。顧客がいくら満足しても、自社が継続するのに必要な収益を確保できなければ、意味がないのではないか。

 中国の古典から多くのことを学んでいた徳川家康の遺訓に、「及ばざるは、過ぎたるより勝れり=及ばない方が、やり過ぎよりいい」とあるが、ビジネスでも同じことが言える。及ばないより及ぶ方が良いには決まっているが、過剰は良くない。及ばない場合は、その原因を考えて、また挑戦し、及ぶようにすればいいだけのことだ。

 日本マクドナルド創業者・藤田田氏もまた、「失敗されたことはないのですか」と尋ねた際、「ないね。今は考えが及ばなくて、こういう状態だけれども、よく考え直して、そのワンステップ先に行けばいいだけのことだから」と、答えられたことを思い出す。

 何事も過剰になれば弊害が出てくるが、もしコストを掛けずに、製品の品質なりサービスが、クライアントが要望するレベルより良くなるのであれば、臆せずチャレンジすればいい。

 また、「孫子の兵法」に、「囲師は周するなかれ=敵を包囲するには、どこかに逃げ口を開けておくべきで、決して完全包囲してはならない」と説かれている。完膚なきまでに追い込むと、相手は予測できない動きに出てくることがあるとの教えだ。例えば、心ならずも社員を退職させないといけない時に、逃げ場のないような状況にまで追い込んでしまうと、思わぬ反撃に出られることも考えなくてはいけない。「窮鼠猫を噛む」、よく心に刻んでおかれたし。

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