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企業のメンタルヘルス担当者の掟

私自身 人事労務の仕事が天職だと思い、医療機関、通信会社、IT企業と様々な業種で自分の会社の社員のために裏方の仕事をしていました。
気づくとメンタル不調で大事な社員が次々に退職していく中で何かできないか、、と社内のメンタルケアの業務を立ち上げたのです。


他社の人事担当の方のお悩みでも 最も多い声が「何をすればいいのかわからない」というものもよくお聞きしました。 
企業研修会でも 講師の依頼を頂き、社内事例をお伝えしますが、それまで私としては「普通のこと」と思って実行していたことが 皆さんにとって参考になる事例だったとお聞きし、いかに皆さんが対応に苦慮されて なかなか実行できずにいるという 人事担当者の方たちの苦労を知ることができました。

だいたいの会社は 人事か総務にメンタルケアを扱う担当があると思います。
業務の内容は、不調者の1次対応や産業医面談の調整や状況確認、休職の手続き、復職の手続きなど 不調者と直接のやりとりをする部門です。
一定マニュアルがあるにせよ、個々の状況により臨機応変に対処する必要もあります。 ところがこの業務は 大体の場合 他の事務仕事と兼務されている場合が多いのが現状。だから担当者は 時間的にも精神的にも追いつかなくなってしまい、担当者がメンタル不調に陥る、と言うケースも耳にします。

メンタル不調で会社を休んでいる人には、担当者は重要な書類を郵送しますね。
文章が多い書類を渡して「読んでね」と言っても ほとんど目を通すことができません。一人暮らしならなおさらです。これは怠けているわけではありません。
休職中、大事な書類を郵送しても ポストに取りに行く元気もありません。
最も多い「うつ病」の場合は「活動することができない」病気ですから、トイレもお風呂も食事も自力でできなくなります。それなのに、ポストなんか気がつくわけがありません。

勿論メールの返事もありません。。 生きているのかどうか 確認しようがありません。本当に連絡が取れないときは、自宅まで生存確認に出向くことも何度もありました。

メンタル不調や休職者の担当をする人は、そういう病気を持った人を相手にした仕事なのです。

そういう状況で どうしましょう。。
 

人に関わる仕事は 「ほったらかし」にすること

 これは 一番NGだと 私は思っています。

担当者自身 とても忙しく 丁寧な対処をしたくても時間的にも精神的にもできないという声も聞きます。

それでも少しでも企業でメンタルヘルスを担当する方に最低限 知っておいてほしいことをまとめてみました。

メンタルヘルスの問題について、医療に詳しくなる必要はありません。 そして 病気だからとビビる必要もありません。とはいってもある程度の知識と方法は知っておかないとなりませんね。

★★企業担当者 メンタルケアの掟★★

❶相手の話を聴く時間、こちらの話をする時間を きちんと分けて

  ===聴くは最大限   話すは最小限==

 メンタル不調の方は 頭の中が疲労感でいっぱい。会社に来るのも必死なところに、あれこれ質問、次から次へと話したいことを盛り込みすぎても ほとんど届いていません。余計に辛い気持ちにさせて 更に自分が話したことも覚えてもらえてないのであれば、お互いに時間の無駄です。
しっかり聴いてあげるときは黙って聴く。話しておかないことは端的に。
相手の心境を考えてあげることが 結果的に信頼し合える関係性も作ることができます。

❷聴いた話は きちんと面談記録として文書化しておく。 
 そして関連する最小限のメンバーに常に共有する(勿論 本人の同意を得てから)

 面談記録は立ち話だとしても きちんと残しておきましょう。いざというときに いつ どんな話をしていたか どんな体調だったかを把握することができますから、病院や家族に連絡するときにもとても有効です。
 また信頼できる最小限のメンバーには共有できるほうがいいです。一人だけで対処していると限界がきてしまいます。但し、必ず本人の同意を得てからにしてください。勝手にほかの人に自分の話をされたら 誰でも嫌な気分になりますよね。メンタル不調に限らず、誰でも同じです。信頼関係は最も重要になります。



❸医療的な問題と 労務的な問題をごっちゃにしない。 
  ===「疾病性」と「事例性」===

メンタルケアでよく言われる言葉ですが 「疾病性」と「事例性」です。
疾病性とは 病気の症状や重症度のこと。 事例性とは 実際に仕事中に起こっている就業上の問題のこと。
勿論、重症の人に無理やり働け、ということを言っているのではありません。
メンタルヘルスの場合、ついつい「うつ病だから朝遅刻しても仕方ないよね」など 病気だから仕方ない、と勝手な判断をしていると 本人の回復の妨げにもなりますし、周りの社員のモチベーションも低下させます。
疾病性の医療の部分は 医療機関に任せればいいのです。
企業では「事例性」で判断しましょう。
どの会社にも就業規則がありますね。きちんと守ることが会社に勤める社員の義務。できないようなら できるための努力をするのは本人。そのために休職制度があるのです。会社は就業上問題になっていることが何か、で判断して本人とよく話し合う必要があるのです。
 ここでの判断は とても重要。あいまいな態度は全社員への悪影響を及ぼしますし、後手に回るとリセットしにくくなります。


企業でのメンタルヘルス担当の方は、人に関わる部分で必要なメンタルヘルスの知識を少し学んでおくことをお勧めします。
ですが、一人の人だけが理解しても 上司や他のメンバーの理解を得られない場合、勉強した人だけが孤立してしまう可能性が高いのも 実は企業内のメンタルヘルス対策での問題点です。

企業ではできるだけメンタルケアチームを作ってグループで対処していただけると メンタルケアは成功に近くなります。

病気は病院で治療を行い、本人は現実を認め、治療に専念し、改善したら復帰を果たせるようにする。

そして会社は その人の健康が損なわれるような環境を改善しつつ 労働者の皆さんが力を発揮できるように適材適所の考え方で 業務の指導を行う。
 
病人だから仕事をさせない、という腫物扱いにすることこそ
   ★一番の「差別」。
  
できることを一緒に考慮することと 与えない差別は 全く別物です。


そして私たちは 会社員である前に 一人の人間です。 
道端で倒れている人がいたら 助けようとするでしょう。
医者じゃないから・・と無視する人は少ないと思います。
また迷子の子供がいたら、声をかけて 親御さんを探してあげようとするでしょう。 
警察じゃないから・・と無視する人はいないでしょう。

人間は 人の困りごとに対応しようとする生き物です。

わからないことはわかる人につなげ、自分ができる「声掛け」や「話を聴いてみる」ことを ただそのまま行動に移せばいいだけです。

そこには 専門知識なんて 特に必要ありません。 

あれ?どうしたんだろう。。。 最近なんか元気ないな・・・
そう感じたら 動けばいい。 そのあとのことは みんなで考えればいいと思います。

この精神で長年 私はメンタルケアを行ってきました。
一番長く務めたIT系は いわゆるオタクが多く、人と話すのは苦手でも、パソコン上では何でも話せる、という人がたくさんいました。
私のようなうるさいおばちゃんは嫌われるだろうと思っていましたが、「最近元気ないね」「大丈夫?」などと やはり心配なときには声をかけます。

意外なことに 声を掛けられて嫌がる人は 「一人もいません」でした。

心配されて 本気で迷惑がる人は 誰もいなかったのです。 
誰でも「本当に困っているとき」は 誰かに話したい、聴いてもらいたい、どうにもならない自分を助けてほしい、と思っています。


周りの目を気にして・・・  最後まで責任取れないから・・・ 何をしていいのかわからないから・・・ と本当は とても心配しているのに その気持ちを相手に伝えないのは あなたの特別なスキルを発揮していないことと同じです。「気にしている」こと「心配なこと」に気付いている力を きちんと発揮して表現してください。


ある意味 企業のメンタルケア担当者は 「おせっかい」くらいがちょうどいいかもしれません。
ちなみに私は 会社で 「カバ園長」と呼ばれていました(爆)
動物園みたいな会社だったから・・・?



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