ねえ、マスカレード… 君の素顔が見たいんだ ➁「悲しみの彼女… 僕が悪かったんだ」
なんなんだよ、こいつ…
何が「大っ嫌いっ!」だよ…
こっちだって、誰がお前なんか好きなもんか!
あーっ! ムカつくっ!
見てろ! 言われっぱなしでいるかよ!
********
返詩したくて
してるんじゃねえ!
お前なんか
こっちだって
大っ嫌いっだよ!
なんだい
マスカレードなんて
カッコつけて…
コロナ禍が終わっても
マスク外せないくせに!
#詩 #返詩
#お前こそバカ!
#あほんだら
********
これでどうだ…
こっちの怒りを思い知ったか、クソ女め!
ここまで言ってやったら、さすがにブロックするだろうな…
…………
僕はパソコンの画面を見つめた。
数分経った…
まだ、『マスカレード』の表示が消えない…
ブロックしないのか?
「あ!」
まただ… また『通知』の表示欄に①の文字がついた。僕のアカウントに、誰かからの着信があった。
誰からかな…? 知ってるやつか?
********
さよなら…
マスカレード 😢
#涙
********
マ、マスカレードからだ…
「さよなら…」って… それに、この涙顔マーク…
な、何だよ…
へっ! こっちだってバイバイですよーだ!
あー、せいせいした。
「・・・・・・・・・・・」
「あっ…! 『マスカレード』の表示が消えた…
やっとブロックされたんだ。へっ、こっちこそ望むところさ。さよならっ!」
他に誰もいない部屋で、僕はわざと大きな声で口にした。
さっきまで、『マスカレード』に対して腹を立てて興奮してたけど…
何か虚しさを感じている自分が、一人暮らしの部屋の勉強机に置いたノートパソコンに向かってポツンと座っていた…
ノートパソコンの画面は、まだSNSの『seclusion』のサイトを開いたままだ。ジッと見つめる画面には僕の『固定モノローグ(monologue)』に対して、すごい勢いで複数の『リ・モノローグ』が付いていく。(注:モノローグはTwitterのツイートに相当する。)
こんな内容の着信がほとんどだった…
********
おい、『詩人の真似事師』!
お前バカか? 詩ね!
********
********
あなた最低ね!
私もサヨナラよ!
********
********
あーあ…
やっちゃったね、『詩人の真似事師』くん…
ダメだな、こりゃ…
********
********
(# ゚Д゚)アホ
********
********
結構、あなたの詩…好きだったのにな…
女心を勉強しなさい、ボーヤ!
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********
『詩人の真似事師』くん…
『マスカレード』さんに謝りたまえ!
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********
アホンダラ!
女泣かすなや!
土下座せえっ! ボケッ!
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********
女の子を泣かしたらダメでしょう、君…
君は最低の男だよ…
(☞゚ヮ゚)☞
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********
💀デス!
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********
この『seclusion』から出てってよ!
二度と顔出すな!
バーカ!
********
********
「*+`~#$&!:?」!
********
他にも多数あったが…届いた着信は全部と言っていいほど、僕を否定し攻撃するコメントばかりだった…
ちなみに『詩人の真似事師』というのは、僕の『seclusion』でのバンドルネームだ。
『seclusion』上の僕のプロフィールページを見てみると、僕に対するフォロワーの数が昨日は百数十件あった筈なのに十数件に減っていた。残った僕のフォロワーは昨日までの一割だけだった… それだって、いつまで残っている事か分かったもんじゃないな。
「あ~あ… フォロワー達にまで嫌われた…」
フォローの解除だけじゃなくて、ブロックもいっぱいされたんだろうな…
僕は凹んだ… 落ち込んだ…
「何だよ… 僕がそんなに悪い事したか…? ええっ!
教えてくれよっ!」
僕は勉強机を思いっ切り右拳で叩いた。ノートパソコンが机の上で飛び跳ねた。
「せっかく…ここ一年間でフォロワーが、ぼちぼちだけど増えて来てたのに…
クソッ! それもこれも『マスカレード』のせい…」
僕が悔し紛れにつぶやいていた時だった。
まだ、『seclusion』の僕のプロフィールページを表示させたままだったけど、突然『メッセージ』の表示箇所に①の文字がついた。誰かからのDM(ダイレクトメッセージ)が届いたんだ…
「誰からのDMだろう…? どうせ苦情か、『死ね!』とか『やめろ!』とかいう脅迫メッセージなんだろうな…」
僕はメッセージのウインドーを開いて確認した。
「なんだ、『セイコ』さんからか…」
僕は送られて来たDMが、同じ詩アカで相互フォローし合ってる仲のいい女性詩人の『セイコ』さんだと知って安心した。どうやら、少なくとも彼女は僕をブロックしていないらしい。
とにかくDMを読んで見る…
********
あんた、何やってんのよ…😠
『マスカレード』ちゃんとのやり取り、読んだわよ。
あんた、本当にバカじゃないの…?
あんないい娘を泣かしたりして…😞
あんた、今『seclusion』ですごく評判悪いわよ。
********
やっぱり、『セイコ』は僕と『マスカレード』のやり取りを見ていたらしい。まあ、フォロワーが一気に激減したくらいだから当然か…
とにかく、彼女にDMの返事を書く事にする。
********
『セイコ』さん、見てたんだね…
恥ずかしいな…😓
でも、昨日からの『マスカレード』とのやり取りを知ってるんなら、
僕だけが一方的に悪いかどうか分かるだろ?
あっちだって悪いんだ😠
********
ここまで入力して僕は返信した。
数分経って『セイコ』からの返信が届いた。
********
私はね、あんたと知り合う前から
『マスカレード』ちゃんを知ってるの。
彼女はとってもいい娘なのよ。
コロナ禍で苦労だってしたんだから…
********
僕や家族だって、コロナ禍では苦労したさ。
そう思いながら、僕は『セイコ』に返信する。
以下、表現上ややこしいので『セイコ』のDMを♀、僕のDMを♂で表示する事にする。
********
♂:そんなの、世界中の誰でも一緒だろ?
コロナ禍じゃ、みんな苦労したさ。
何も『マスカレード』だけじゃない。
********
♀:それはそうよ…
でも、彼女の家庭は特に酷かったのよ。
私、DMのやり取りで彼女から直接聞いたの。
コロナ禍の初期に彼女のお父さんが
新型コロナに感染して亡くなったの…
あの時期は病院でも、ちゃんと治療を受けられなくて…
お葬式も挙げられなかったんだって。
彼女がまだ小学校に上がる前の話よ。
6歳くらいかな…
あんた、どう思う…?
********
♂:・・・・・・
『マスカレード』はコロナ禍でそんな辛い思いを…
僕、何も知らなくて酷い事を言った…
でも『セイコ』さん、
彼女が今でもマスクを外さないのはどうして…?
********
♀:彼女が言うには、看護師を目指して勉強を始めたから…
彼女、看護大学の学生なのよ。
病院実習なんかでもマスクをする事が多いんだって…
でも、それは彼女のいいわけね。
決して本心じゃないわ。
彼女ね…
新型コロナ感染でお父さんを失ってから、
心から笑えなくなったんだって…
彼女、お父さんが大好きだったのよ…
マスカレードちゃん、精神的なショックで
普段でも表情が乏しくなってしまったんだって…
たぶん、それを知られたくないんでしょう。
********
僕は愕然とした。
あのコロナ禍でそんな悲劇が『マスカレード』と彼女の家庭を襲っていたのか… 誰もが辛かった時代だけど、彼女自身が幼かった時代にそんな辛い体験を…
********
♀:ねえ、邦彦君。起きてる?
もおっ!
返事が無いんなら、DMのやり取り終わるわよ。
私だって忙しいんだからね!😡
********
『セイコ』…聖子さんは僕の本名を知っているんだ。
仲良くなってからだけど、前に互いの本名を教え合った事がある。
彼女の名前は風祭 聖子さんと言って、秘書の仕事をしているらしい。それ以上は詳しく知らないけど…
聖子さんには時々、DMで相談に乗ってもらったりしてる。
僕よりも大分年上らしいけど、先生か姉さんみたいにすごく頼りになる女性なんだ。
それよりも、今は聖子さんにまだ聞きたい事があるんだ…
DMを切られちゃまずい。
********
♂:ごめんなさい、セイコさん。
彼女の事、考えてて…
知らなかったと言っても、
僕は彼女に酷い事を言ったんだね…
セイコさん、僕はどうしたらいいんだろう?
このままじゃ、僕は彼女を傷付けたままで…
********
♀:自分が悪いんでしょ、自分で何とかしなさいな。
と言っても…
ブロックされてちゃ、どうしようもないか…
かと言って私は知ってても、あんたにこれ以上
マスカレードちゃんの個人情報を教える訳にもいかないしねえ…
********
♂:そこをなんとかお願いします、聖子さん!
僕を助けて下さい!
このままじゃ、僕は…
********
♀:ああっ、もう… しょうがない子ね!
仕方ない、乗りかかった舟だもんね。
あんたよりも、マスカレードちゃんの方が心配だしね…
とにかく、私が彼女に連絡してみる。
あんたは反省と謝罪の文でも考えて書いておきなさい。
私を経由して彼女に伝えてあげる。
********
なるほど、その手があったか!
僕は聖子さんの提案に飛びつく事にした。
無神経な僕の返詩が彼女を傷つけた事を、とにかく謝りたいんだ。
********
♂:セイコさん、よろしくお願いします。
とにかく、彼女に謝りたいんです…
でないと、僕は…
もう…二度と詩を書けない気がする…
僕は彼女の気持ちと詩を、同時に汚してしまったんだ…
だから…
********
僕は本気でそう思っていた。
『マスカレード』に許されないなら、詩を書くのをやめよう…
それが、彼女を傷つけた事への贖罪になるなんて甘い気持ちで思ってる訳じゃない。
でも、僕にはもう…詩を書けなくなると思う…
本当に僕はそう思うんだ。
僕は詩を書き始めて、自分の詩を人に読んでもらって喜ばれると、僕も嬉しくなる事を知ったんだ。もっと詩で人を楽しませたい、そして自分自身も楽しみたいと思って毎日詩を書いて来た。
でも、人を傷付ける詩なんて、もう二度と書かない…
書けないよ…
********
♀:分かったわ、邦彦君…
あんたの気持ちが本気だって事は。
とにかく、このセイコお姉さんが
あんた達二人をこのまま放って置けないわ…
明日以降になるけど
私からの連絡を待ってなさい。
それから、もう今日は寝なさい。
いいわね。
********
このDMを最後に、聖子さんと僕の通信は終わった。
聖子さんにはああ言われたけど、今日はなかなか眠れそうにない…
本当にごめんよ、マスカレード…
【次回に続く…】
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