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【本の紹介】苫野一徳『はじめての哲学的思考』(ちくまプリマー新書)

□難度【★★☆☆☆】
「本質観取」という"難解"な概念を読者に理解させるために、一冊全体を費やしている…と言っても過言ではない。しかも、平易で明瞭な言葉を用いながら。そして、その企図は見事に成功していると思う。「はじめての」という看板に偽りなし。誠実な入門書と言える。

□内容、感想など
一つ概念を、哲学の歴史などを参照しながら一般の人間にも「なるほど…!」と思えるような言葉で定義し直してゆく…という本書の営みそのものが、まさに哲学の実践と言えるだろう。
とりわけの白眉が、「第16講 本質観取をやってみよう ~『恋』とは何か? ~」。本書の説く哲学の手法を実際に用いた授業実践を紹介してくれる。哲学が机上の空論などではあり得なく、今、この時代や未来を築くうえで必須の知であることを、これ以上ないほどに実感させてくれる。僕はこの一冊を、あるべき民主主義を模索するテクストとして読んだ。
ただ、疑問もある。筆者は「帰謬法」を徹底的に批判し、それを不毛なものとして排除する。「帰謬法」とは、いわゆる重箱の隅をつつく揚げ足取りのような論法である。もちろん、そうした態度が対話の場において害悪でしかないということには、僕も賛同する。が、これは僕の勘繰りが過ぎるのかもしれないが、僕にはどうしても、筆者の「帰謬法」批判が、「脱構築批評」の批判を示唆しているように感じられてしまうのだ。もしそうであったなら、その点についてだけは、異議を呈したい。僕は、脱構築批評を、対話を継続するための大切な考え方だと信じているので。
とはいえ、素晴らしい内容の一冊であることに間違いはない。誠実で真摯。全力でオススメしたい。

□こんな人にオススメ
・哲学を初歩の初歩から学びたい、すべての人。
・対話的な授業を構築したい国語の教師、講師。
・民主主義について深く考えたいすべての人。
・頑張れば中学生にも読めるかも。


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