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【地学】『大地の五億年 -せめぎあう土と生き物たち-』【#3】

こんにちは、げんちゃろです。

季節はすっかり春になり暖かくなりましたね。冬が好きな私にはけっこうさみしいものです。山が好きな私にとっては、冬山の雪景色は圧巻ですし、何より冬は登っている間も涼しくて歩きやすいんですよね(暑がりなもので。)。

そんなこんなで今回紹介したい一冊はこちら。
『大地の五億年 -せめぎあう土と生き物たち-』藤井一至著(2022年、ヤマケイ文庫)

ちょっと前に読了したのですが、こちらは去年有楽町の三省堂の山岳コーナーで山の地図を探していたときにふと目に入り購入したもの。

著者の藤井一至先生は、京都大学で土壌学や生物学を研究されている方で、スコップを持って世界各地の土を掘り返して回る異色の研究者。以前クレイジージャーニーにも出演されていて、南アルプスあたりの山に入って土を必死に掘り返している様子が放送されていました。

・地球で最初の「土」

地球に「土」ができたのはいつか?当たり前のように土に親しんでいる我々にとっては、直感的には、地球が誕生した時、つまり46億年前から土は存在していたのではないかとも思ってしまう。

しかし、誕生したばかりの地球は岩石だらけで、岩石やこれが細かくなった砂と「土」とは全く異なる。土(土壌)とは、「岩石の風化によって生まれた砂や粘土に腐った動植物遺体が混ざったもの」と本書でも定義されているとおり、そもそも動植物がない間は土は生まれない。

今から5億年前、地球で初めての植物、つまり地衣類(コケや藻類)が、文字通り「砂を噛むような思いで」(このあたりの藤井先生のワードセンスも面白い。)、岩を酸性物質で溶かし、養分を吸収して成長した。その地衣類の遺骸が砂や粘土と混ざりあい、地球で初めての「土」が誕生したのです。

そう考えると、土が生まれたのは地球の歴史の中でもかなり最近のできごとなのですね。

・植物たちのせめぎあい(シダ植物)

地衣類が土を生成していくにつれて、新たな植物類が栄華を極めることになる。それがシダ植物。シダ植物は、根と維管束を持つ点でコケなどの地衣類とは大きく異なります。根や維管束を持つことによって何ができるかというと、水や養分を地中から吸い上げて上に運ぶことができるわけなので、背を高くすることができ、したがって光合成に必要な日光を独占できる。

こうしてシダ植物は繁栄し、彼らが育った湿地帯に大量のシダ植物の遺骸が堆積することになります。湿地帯、つまり水の中に倒れ込んだシダ植物の遺骸は、微生物による分解が活発に行われず(酸素が少ないため)、泥炭土の層を形成する。これが地中深くに埋まり、地熱と高圧で変化を遂げたのが「石炭」なのです。

繁栄したシダ植物たちは、光合成で大気中の酸素濃度を高め、昆虫の巨大化を引き起こすとともに、大量の二酸化炭素を吸った状態で枯死し分解もされないことで、大量の炭素を地中に固定する。

・植物たちのせめぎあい(裸子植物とキノコ)

シダ植物の後に反映したのが、現在のマツやヒノキ、スギといった裸子植物。彼らは、リグニンという木化物質を得て、頑丈な幹を手に入れ、シダ植物よりも背を伸ばすことが可能になり、地表を覆いつくして太陽光を独占していきます。

そしてリグニンは微生物にとってあまり美味しくない物質だったため、裸子植物の遺骸も分解プロセスがすすまず、地表に大量の炭素が定着。これにより、地球史上最大の石炭蓄積時代、いわゆる地質年代「石炭紀」を形成するのです。

そのリグニンの分解者として登場したのがキノコ。彼らの進化により、リグニンを含む有機物の分解が促進し、石炭紀は終焉を迎えます。炭素の循環サイクルが復活したのですね。

・有限な土と農業

この本では、我々人類を含めすべての生物は、土から離れて生きることはできないということをいたる箇所で痛感させられます。それにもかかわらず、私は今まで、土に対してあまり関心をもっていなかったばかりか、頭のどこかでは、土は無限であるようなイメージを持っていました。

しかしながら、、土に含まれる作物の生育に必要となる栄養分(窒素やリンなど)は、当然作物に吸収され、収穫されれば土からは奪われてしまう。かつての農業では人間の糞尿を使った有機肥料が多く用いられ、養分のリサイクルが行われていたものの、今やそのようなリサイクルは停止され、その代わりに過剰な窒素肥料の使用によって土壌の浸食や酸性化を進行させてしまっている。土壌が形成されるのには途方もない時間がかかるのだけれども、そんな土壌も人間の営みによって数百年で食いつぶしてしまうことにもなりかねない。

・小括

この一冊は、地球で初めて土が生まれてから、どのように植物・動物たちが繁栄してきたのか、人の営みが土に与える影響、やせ細っていく土壌の現実、土と人間の良好な関係を維持するための未来に向けた取り組みなど、土をめぐって様々な示唆を与えてくれました。

説明も非常にわかりやすく、もともとあまり地学の知識はなかった私でも十分理解することができたと思います。藤井先生の独特なワード・文章のセンスもとても好きでした。

目の前の土・植物たちの見え方が変わる一冊だと思います。おすすめです。

ではまた!


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