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【別れの前夜】
娘のお産が終り、3ヶ月のあいだ家にいた黒ポメの〈のあ君〉も、娘や赤ちゃんと一緒に自分家に帰ることになった。
飼い主の娘は、赤ちゃんの面倒を付きっきりで看ないといけなかったので、〈のあ〉まで手が回らない。
だから3ヶ月間、〈のあ〉のケージは僕が寝ている部屋に置いてあって、僕と〈のあ〉が一緒に寝ていたし、僕と家内と息子の3人で世話をしていた。
正直、散歩がめんどいとか、ウ●コ・オシッコの世話が煩わしいなどと思ったこともあった。
今までは自分がNO.1の存在だったのに、家族の愛情を赤ちゃんに取られてしまった悔しさもあったに違いない。〈のあ〉はいつになくよく吠えもした。
しかし、帰る日の前夜であった。暗い部屋のケージの中で、ベッタリと脚を投げ出し、横向きになって寝ている〈のあ〉の姿を見た時である。胸がキュ~ンとなって急に愛おしくなったのだ。
家内と息子の前では平気を装ってはいるが、僕だって本当は寂しいのだ。
・・・・・・・
3ヶ月はあっという間に過ぎ去った。
次の日、娘と赤ちゃんと〈のあ〉は帰っていってしまって、ウチの中が一挙に寂しくなった。
〈のあ〉のお家だったケージの中も、主がいなくなってしまって空っぽになった。
ケージはパソコン椅子の背中側に置いてあった。
パソコンをいじっていると、まだそのままにしてあるケージの柵から、「遊んでくれ」といって〈のあ〉が手を伸ばして、また僕の背中をつつくんじゃないかろうかと思ってしまうのである。
この春には、娘婿の転勤によって、娘夫婦たちは、家から1.000kmも離れた所へ転居することになっている。
引っ越してしまったら、娘夫婦と赤ちゃんに会える機会が少なくなるだろうし、況してや犬の〈のあ〉の移動は更に難しくなってしまって、もう会えなくなるのかも知れないのだと思うと、余計に寂しくなるばかりなのであった。
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