見出し画像

【優しい男】

ホテルの宴会課に勤務していた頃の話である。

宴会課では、パティーや披露宴などの催し物の規模によって、それに見合った数の〈スポット〉と呼ばれるアルバイトを集めていた。

〈スポット〉の内訳は大学生と専門学校生が殆んどで、男女の割合は半々くらいだった。

その中に、B子という、あんまり可愛くないというか、モテないというか、目立たないというか、不●工というか・・そんな女の子がいた。

・・・・・・・

さて、ある年の暮れであった。スポット達が数十人集まって、居酒屋の大広間を貸し切って忘年会を開いた時のことだ。

タマタマ B子の隣に座っていた大学生のK男が、寂しそうにお酒を飲んでいるB子を見て可哀想になったのだろう。優しい声を掛けてやったのだった。

「B 子ちゃんバイト頑張ってるよなぁ、いつも感心してるんだよ」

男のほうから声を掛けて貰ったことが無かった彼女は舞い上がってしまい、こともあろうに、K男はアタシに気があるんだと、勝手に思い込んでしまったのだ。

そんなことがあってからというもの、ことあるごとに、B子はK男に色目を使うようになってしまったのである。

困ったのはK男だ。

〈なんだよぉ、アイツゥ・・勘違いもいいとこだ〉

堪り兼ねたK男は、女友達のC美に事の由を説明して、B子に諦めさせるように説得してくれないかと頼んだのである。

・・・・・・・

数日後に機会を得たC美は、B子を喫茶店に誘って本当のことを話した。

「・・B子ちゃんね・・あのね・・K男くんのことなんだけどね・・」

「えっ❗️・・なにっ❓️」

「あのぉ~・・あのね、K男くんさぁ、B子のことをさぁ・・いい子だ、とは思ってんのよ、いい子だとは」

「なにが言いたいのよ」

「だからさぁ、K男くん、B子とさぁ・・付き合う気はないのよぉ」

「そんなことないよ❗️忘年会の時、あんなに優しくしてくれたもん❗️」

「あのね、K男くんは優しい人だからね、皆んなにも優しいんだよ。だから、B子だけに特別な感情を持ってるって訳じゃないのよ」

「うんにゃっ❗️K男くんは絶対に私のことが好きなの❗️」

C美が言って聞かせても、B子はキッパリとそう言い切るのだった。

もう、C美に成す術はなかった。

・・・・・・・

結局、B子がK男を諦めるまでに半年という長い時間が掛かったのである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?