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【200万ファミレス】

貧乏な若者が採用されたアルバイト先は、都内でも屈指の超多忙なファミリーレストランであった。

接客という仕事が初めてだったので戦々恐々であった。当初はメニューと価格を覚えるだけでも大変だった。当時の伝票は手書きだったので覚えておかないとお客様の前で素早く書けないのだ。

1ヶ月も経った頃から〈いらっしゃいませ!〉の声もスムーズに出るようになってきて、なんとか形になってきた。

ところが1日200万円を売り上げるファミレスの忙しさは、流石に殺人的なものがあった。

ファミリーレストランのフロア係は、ニューゲストに〈水とおしぼりを出す〉〈オーダーを取る〉〈オーダーをキッチンに通す〉〈出来上がった料理をお客様に出す〉〈セットものでは料理より先にスープを出す〉〈コーヒー・お冷(水)の補給サービスを絶えず行う〉フロアを歩きながら〈食べ終わって空いた皿等を随時下げる〉〈アフターコーヒー・デザートをタイミングを合わせて出す〉等々のことをやりながらデシャップに上がってきた料理は最優先でお客様に出さなければならなかった。冷めるし、お客様が待っているのだから。

〈セットのサラダ・ドリンク類・パフェ・シェイク・アイスクリーム等のデザート〉もフロアのサービス員が作らなければならない。

何人何組ものオーダーを抱えてキリキリ舞いしている時でも、レジにお客様がいて誰も対応していなかった時はフロア担当が飛んでいかなければならないし、レジをやっている最中に「ピンポ~ン❗️」と天井の〈呼び出しパネル〉に自分のサービス員ナンバーが点灯されると直ぐにも料理を取りにいかなければならないのだから1秒たりとも気が抜けないのだ。

「ピンポ~ン」という呼び出しは、点灯した番号のサービス員が通した料理が出来上がったからデシャップまで取りに来い、という合図なのだ。ホールでどんなに複数の仕事に捕まっていても、最優先で料理を取りに行かなければキッチンが怒るのだ。デシャップが料理だらけで他の料理が乗らなくなるし、冷めることを最も嫌うのだ。だからデシャップの上には3・4基のヒートランプが吊るしてあって冷めないように料理を照らしてはいるのだが・・・

ラッシュもピークになると、皿やナイフフォークの洗浄も間に合わなくなってきて、店長が洗い場にヘルプに入ったりもした。

そんな中で、テーブルのナプキンや塩・胡椒などの補給もする。

お客様が帰ったあとのテーブルの上の沢山の皿やカップやナイフフォークを大急ぎでバッシング(下げ)をし、新しいセッティングもしなければならない。外まではみ出て並んだお客様が入店を待っているのだ。

売上200万円を越えるということが、既にこの店のキャパシティを越えてしまっている。

夜の20時から朝の8時まで、トイレと30分の休憩時間以外は座ることもなく、多くのお客様を迎えては莫大なオーダーを間違えることなく提供し続けなければならない。ニコニコしながら・・・

毎夜毎夜、この地獄のような営業が延々と営まれるのだった。

まだ20代の若い僕だったからなんとか務まったのだろうが、今なら到底できやしないし、やったら死ぬかもしれない。

尤も、今だったら労働基準監督署が黙ってはいないだろうが・・・

・・・・・・・

バブル経済が満開だった頃の話である。


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