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【テーブルマナー】

フランス料理のフルコースを食べる時には、何やら小難しい作法があって、聞いただけでも肩が凝りそうだ、なんて思われる方もおられるだろう。

僕が勤務していたホテルの宴会課では、卒業を控えた学生や生徒を対象にした、〈テーブルマナー〉を勉強する食事会が催されることがあった。

これから社会に出て、仮に〈フレンチのフルコース料理〉を食べる機会があっても、一社会人として恥をかかないようにするための〈西洋料理の作法の勉強会〉なのである。勉強会と言っても料理はちゃんとしたものが出る。

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会場奥のステージ上にはホテル講師用のテーブルが置いてある。フロアには、結婚式の披露宴と同じように、幾つもの丸テーブルが並べられていて、その上にはコース料理の〈シルバー(ナイフフォーク)〉や〈グラス〉〈ナプキン〉が整然とセットされている。

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講師の挨拶と簡単な説明が終わり、各テーブルのサービス担当者がゴブレットに水を注ぎ終わると、最初の〈オードブル〉が運ばれてくる。

水・ビール・ワインなどのドリンクサービスの受け方であるが、グラスやタンブラーは手に持たないほうがベターだ。手に持たれるとサービス員が注ぎ難いので、グラス類はテーブルの上にそのまま置いた状態でサービスを受けて頂ければ結構である。

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〈オードブル〉

〈スープ〉

〈バケット(パン)〉

〈ポアソン(魚料理)〉

〈ソルベ(シャーベット)〉

〈アントレ(肉料理)〉

〈サラダ〉

次にデセール(デザート)コースに入る。

〈アントルメ(甘いお菓子)〉

〈フルーツ〉

〈デミタスコーヒー〉と続く。

学生なので〈ポアソン〉の前の白ワインと〈アントレ〉の前の赤ワインのサービスは省かれているが、ザッとこんな順番で料理が提供され、その都度ごとに食べ方や、どの〈シルバー〉を使うのかなどを講師が説明するのである。

各テーブル担当のサービス員も近くまでいって直接指導をしたりもする。

コース料理で最も悩むのが、沢山並べられた〈シルバー〉のどれをどの料理に使うのかということだと思う。

標準のフレンチのセッティングであれは、中央の料理を挟んで、左右に〈シルバー〉が並べられている。

これは料理の順番に左右の外側のナイフフォークから使っていくのであるが、見た目のバランスから2番目に出てくる〈スープ〉に使用する〈スープスプーン〉だけを右側の1番外にセットする場合もある。この場合、一番外側だからといって、最初のオードブルに〈スープスプーン〉を使ってはいけない。

上から見ると、料理を中央に、右側外から〈スープスプーン〉〈オードブルナイフ〉〈フィッシュナイフ〉〈ミートナイフ〉・・

左側外から〈オードブルフォーク〉〈フィッシュフォーク〉〈ミートフォーク〉と並んでいる。

だから・・・

①〈オードブルにはオードブルナイフとオードブルフォーク〉

②〈スープにはスープスプーン〉

(本来はここで白ワイン)

③〈ポアソンにはフィッシュナイフとフィッシュフォーク〉

④〈お口直しのソルベにはスプーンが付いてくる〉

(本来ならここで赤ワイン〉

⑤〈アントレにはミートナイフとミートフォーク〉

(サラダはミートフォークとミートナイフを使用)

という順番で使う。

『料理の真上にあるのが、外側からアントルメ用の〈バニラスプーン〉〈フルーツナイフ〉〈フルーツフォーク〉・・という順番で並んでいて、上から使っていく』

⑥〈アントルメにはバニラスプーン〉

⑦〈フルーツにはフルーツナイフとフルーツフォーク〉

と使っていく。

〈バニラスプーン〉の代わりに〈キュイエール〉というナイフ機能のある大きなスプーンを使うこともある。普段カレーライスを食べる時に使うような〈デザートスープン〉を使うこともある。

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さて、スープは音をたてて啜るなとか、ナイフが右手でフォークが左手などと面倒な決まりごとが鬱陶しいフレンチなのだが、僕はそんなに固く考える必要はないと思っている。

まぁ、スープを静かに飲むということくらいは守ったほうがいいのかもしれないが、ナイフフォークは逆に持ってもいいと思うのだ。右利きは右手にフォークを持って食べるのが絶対にやり易いのは間違いない。

左手にフォークを持って料理を口にもっていくのは難しい。ましてやライスをフォークの湾曲した背に乗せて食べるやり方は利に敵っていないと思う。落ちそうだ。

ホテル勤務時代には多くの外国人のお客様にも接してきたが、右手にフォークを持ち替えて、掬うように料理を食べる人が結構見受けられたのだ。

明治時代の文明開化から白人文化に憧れを抱く日本人なのだが、タマのフレンチを食べる機会には、肩を張らずに、なんならサービス員に頼んで〈箸〉を持ってきて貰って、気を遣うことなく料理を楽しめばいいと思うのである。

サービスする側から見ても、慣れたふりをして食べる人よりも、知らないことは訊いて、気取らずに食事をされる人のほうに、返って好感を感じたりするものである。

タマにファミリーレストランなどでランチを食べる時には、僕は、右手に箸、左手にナイフでハンバーグを食べている。

最高のテーブルマナーとは、愉しく美味しく食べるということなのかもしれない。


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