澤谷夏樹(音楽評論家)

慶應義塾大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了(音楽学)。〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励…

澤谷夏樹(音楽評論家)

慶應義塾大学大学院文学研究科哲学専攻修士課程修了(音楽学)。〈柴田南雄音楽評論賞〉奨励賞および本賞受賞。新聞・雑誌に演奏会評・書評などを定期的に寄稿、コンサートやCDのプログラムノートも手がける。また、ラジオ番組に解説者として出演する。国際ジャーナリスト連盟(IFJ)会員。

マガジン

  • 映画と音楽

    映画に響く音楽の話。音楽の響く映画の話。

  • 演奏家の横顔

    20世紀以降に活躍した演奏家の横顔を描写したコラム集。ソフロニツキー、カザルス、グールド、チェリビダッケ 、アーノンクール、レオンハルト、ブーレーズ、アバドを取り上げる。

  • 古楽の世界

    16世紀から18世紀までの音楽に関する話題を、さまざまな切り口でお届け。

  • 教会音楽

    バッハのロ短調ミサ曲、ベートーヴェンのミサ・ソレムニスなど、教会音楽に関するコラム集

  • バッハ新発見

    21世紀になって相次いでいるバッハ学の新発見。これまでの歩みを"中間まとめ"しました。

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バッハ旅

 アイゼナハに生まれ、ライプツィヒで没したバッハ。65年間、さまざまな場所に赴く人生だった。バッハは海外に出たことはない。しかし、旅を避けていたわけでもない。足を運んだ先で大いに飲み、食べ、交流し、学んだ。そんな足跡をたどる“写真の旅”のはじまりはじまり。

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    • ベートーヴェン以後の弦楽四重奏曲

       「誰も新しい葡萄酒を古い革袋に注いだりしない。そういうことをすれば、新しい酒が革袋を破り、酒は失われ、革袋も駄目になる。新しい葡萄酒は新しい革袋に。」(田川建三訳『新約聖書』マルコによる福音書2章22節)  ベートーヴェンが弦楽四重奏曲の分野でしたことは、新しい葡萄酒を古い革袋に注ぐようなことだった。その結果、革袋は破れ、酒はこぼれてしまった。だから後輩世代の作曲家は、まだ破れていないころの革袋に立ち返って、慎重に酒を注がざるを得なくなる。ベートーヴェン以降の弦楽四重奏曲史

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      • 前衛音楽の30年

         「私はヨーロッパについて何も、まったく知らない生まれたばかりの子供のようになりたい。(中略)ちっぽけな造形モティーフを自分の力だけで完成させたい。」(パウル・クレー『日記』)  1950年代、クレーの抱いた願いを共有する音楽家が大勢いた。トータルセリエリズム、電子音楽、偶然/不確定の音楽、政治と結びついた音楽……。「台本」の筋書きはずいぶんと違うが、いずれの「舞台」もその目指す結末は同じ。第二次大戦を終えた今、新たな出発と世界の再建とを音楽の内に実現する。そうした考えを秘め

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        • 楽器が決める音楽のかたち

           1928年4月20日、電子楽器オンド・マルトノが初めて音楽シーンに登場した。レヴィディスの「交響詩」の中で、発明者のマルトノ自身が演奏。この楽器の特色を聴衆に印象付けた。広範囲のグリッサンドや表情豊かなポルタメントはその後、多くの作曲家の心をとらえる。

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          バッハゆかりのオルガンたち

          「世界最大のジグソーパズル」に収まる大オルガン 聖母教会のケルン・オルガン 中部ドイツ・ザクセン州ドレスデン 写真:聖母教会のケルン・オルガン (C)SAWATANI Natsuki

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          バッハゆかりのオルガンたち

          演奏の自由について、または「ワセーワセーと叫ぶワケ」― 批評の前提の話し

           レコードだったら何度すり切れてもおかしくないほど調性音楽の演奏が繰り返されているのは何故でしょうか?音楽自体は古くても、それを再生する演奏に「音楽の新しさ」が現れるからだ、というのもひとつの答え。そうだとすると「音楽の新しさ」は「演奏の自由」から生まれてくるはずです。楽譜として固定された作曲家の指示は誰にとっても同じ。それなのに人によって違った様相の演奏が行われる。それは奏者に「演奏の自由」が認められているからです。では演奏の自由とはどういうことなのでしょうか?

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          演奏の自由について、または「ワセーワセーと叫ぶワケ」―…

          ゲヴァントハウス管が "ゲヴァントハウス" を失っていたころ

           ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団は2020年9月、240期目の演奏会シーズンを迎える。1781年にゲヴァントハウス(初代)を本拠地としてから途切れることなく、コンサートの暦を積み重ねてきた。とはいえ、綿々と続く歴史が断たれそうになったこともある。もっとも大きな危機を迎えたのは第二次世界大戦末期のことだ。 画像:2代目ゲヴァントハウス(1900年)

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          第九の編曲、そのさまざまな姿

           ウィーン・オペラ座の正面玄関を出て、建物の西側の通り、オーパーンガッセをのんびりと6、7分、歩いて南下する。左手にカフェ・ムゼウムを見ながら進むと、やがて「金色のキャベツ」のような円蓋を戴いた白亜の建物が目に入る。分離派会館(ゼツェッシオン)だ。

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          第九の編曲、そのさまざまな姿

          音楽を"副音声"で聴く ─ 管弦楽編曲の話

          管弦楽編曲の目指すところ  独奏曲や室内楽曲を管弦楽曲へと編曲する。きっかけや手法、結果のよしあしはさまざまながら、どの作曲家でもその目指すところはおおむね一致している。

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          音楽を"副音声"で聴く ─ 管弦楽編曲の話

          音楽家の連帯 ― ブラームスの場合

           音楽家たちは古来、さかんに相互交流を重ねてきた。特殊技能を持つ者同士の緩やかなギルド、職位を独占するための同族組合、互いを触発する音楽家同士の連帯。たとえば、テレマンとバッハには家族ぐるみの付き合いがあった。バッハは中部ドイツを根城とする音楽家一家出身。バッハ家は地域の演奏家ポストの一部を一族で独占していた。あるときドレスデンの名リュート奏者、ヴァイスとクロップフガンスの演奏に魅了されたことでバッハは、「リュート組曲」などを新たに生み出していく。このように19世紀以前のミュ

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          音楽家の連帯 ― ブラームスの場合

          ブラームスの管弦楽小品

           画家の個展に行く。代表作が正面の壁に掛かっている。周囲のスペースには、その絵画につながる習作群も展示される。作家によってはその習作が、完成度の高い一作品となっている場合もある。技法の試験場としての役割と、個別作品としての品質とが両立しているのだ。ブラームスの管弦楽小品もまた、そんな両面を兼ね備える。

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          ブラームスの管弦楽小品

          「動く音楽サロン」フランツ・リスト

           フランツ・リスト(1811-1886)。ピアノ奏者、作曲家、教育家、慈善事業家、聖職者、アイドル、プレイボーイ……。西洋音楽の歴史の中で、これほど「散らかった」肩書きの持ち主もめずらしい。様々な顔を持つリストだが、さらにもうひとつ注目すべき横顔を持っている。19世紀後半、リストは「動く音楽サロン」の役割を果たしていた。

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          「動く音楽サロン」フランツ・リスト

          “神童” メンデルスゾーン

           何かに取り組み、上達を目指そうとするとき、我々はしばしば2つの警句を思い浮かべる。「習うより慣れろ」と「好きこそ物の上手なれ」。この言葉は作曲家の幼少時代にも当てはまる。 写真:ライプツィヒ・トーマス教会西側に立つメンデルスゾーン像

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          “神童” メンデルスゾーン

          『新バッハ全集』は演奏譜?

           18世紀ドイツの作曲家J・S・バッハの作品は現在、1000曲余りが伝承されている。そのすべてを厳密に校訂し、楽譜として出版する大事業 --『新バッハ全集』の刊行が2007年に完了した。  音楽学研究の香り高い『新バッハ全集』とはいえ「楽譜」だから、「演奏に使われてこそ存在意義がある」という面は無視できない。プロの演奏家にとって『新バッハ全集』とはいかなる楽譜なのかを、いくつかの証言から検証してみよう。

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          『新バッハ全集』は演奏譜?

          ベートーヴェン以後の弦楽四重奏曲

          「誰も新しい葡萄酒を古い革袋に注いだりしない。そういうことをすれば、新しい酒が革袋を破り、酒は失われ、革袋も駄目になる。新しい葡萄酒は新しい革袋に。」(田川建三訳『新約聖書』マルコによる福音書2章22節)

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          ベートーヴェン以後の弦楽四重奏曲

          チェリビダッケ 最後の録音

           その日、ミュンヘンの演奏会場ガスタイクの前は、「チケット求む」と書いた札を掲げた人々であふれかえったという。1996年6月4日、セルジュ・チェリビダッケの指揮によるミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサート。多くの聴き手が、このコンビの最後の演奏会を予感して、ローゼンハイマー通りの坂下(ガスタイクは急坂の意)に集った。

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          チェリビダッケ 最後の録音