前衛音楽の30年

 「私はヨーロッパについて何も、まったく知らない生まれたばかりの子供のようになりたい。(中略)ちっぽけな造形モティーフを自分の力だけで完成させたい。」(パウル・クレー『日記』)
 1950年代、クレーの抱いた願いを共有する音楽家が大勢いた。トータルセリエリズム、電子音楽、偶然/不確定の音楽、政治と結びついた音楽……。「台本」の筋書きはずいぶんと違うが、いずれの「舞台」もその目指す結末は同じ。第二次大戦を終えた今、新たな出発と世界の再建とを音楽の内に実現する。そうした考えを秘めた作品群を私たちは、その現れが著しく異なるにもかかわらず、「前衛音楽」と総称してきた。

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