音楽家の連帯 ― ブラームスの場合

 音楽家たちは古来、さかんに相互交流を重ねてきた。特殊技能を持つ者同士の緩やかなギルド、職位を独占するための同族組合、互いを触発する音楽家同士の連帯。たとえば、テレマンとバッハには家族ぐるみの付き合いがあった。バッハは中部ドイツを根城とする音楽家一家出身。バッハ家は地域の演奏家ポストの一部を一族で独占していた。あるときドレスデンの名リュート奏者、ヴァイスとクロップフガンスの演奏に魅了されたことでバッハは、「リュート組曲」などを新たに生み出していく。このように19世紀以前のミュージシャンたちは、通信手段が限られる分、今の音楽家よりもずっと密に関係を構築していた。ブラームスの楽界交友も、そういった密度と厚みとを持っていた。

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