ベートーヴェン以後の弦楽四重奏曲

 「誰も新しい葡萄酒を古い革袋に注いだりしない。そういうことをすれば、新しい酒が革袋を破り、酒は失われ、革袋も駄目になる。新しい葡萄酒は新しい革袋に。」(田川建三訳『新約聖書』マルコによる福音書2章22節)
 ベートーヴェンが弦楽四重奏曲の分野でしたことは、新しい葡萄酒を古い革袋に注ぐようなことだった。その結果、革袋は破れ、酒はこぼれてしまった。だから後輩世代の作曲家は、まだ破れていないころの革袋に立ち返って、慎重に酒を注がざるを得なくなる。ベートーヴェン以降の弦楽四重奏曲史は、そんな形で進んでいった。

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