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雪解けとキリギリス

灯油を入れに外へ出た日のこと。
灯油が満タンになるのを待ちながら、何気なく隅っこの地面に目を向けると緑色の物体が目に入った。
葉っぱにしては茶色の枯れ葉にもならずに、色を保ったままよく残っていたなと思いながら近づいてみると、キリギリスの死骸だった。

干からびてはいるがアリに食い散らかされた様子もなく、比較的きれいに姿が残っていた。
アリに食い散らかされた形跡もないということは、アリが冬眠するくらい寒くなった冬の間近まで、最後の一匹となり生き残っていたんだろう。

雪解け、そしてキリギリスの死骸。
その様子はまさに童話『アリとキリギリス』の後日談を見ているかのような気分になる。
子供向けの童話ではキリギリスはアリに食べ物を恵んでもらい、心を入れ替えて働き者になったという結末ではあるが、一般的な結末はキリギリスは食べ物を恵んでもらえずに餓死してしまうのだ。
まさに後者の方の後日談を今見ている。

『アリとキリギリス』を思い浮かべてしまうと、このキリギリスにかわいそうという感情が湧かなくもないが、それは童話の話。
実際のところ、このキリギリスはワンシーズンという儚い天寿を立派に全うしたのである。
子孫を残せたのかなど、このキリギリスの詳細な人生改め虫生が充実していたのかどうかは知らない。
しかし、一つ言えることは過酷な野生環境で誰にも食べられることなく生き残り、形を保ったまま全うした・・・それだけでも立派な最期ではなかろうか。
このキリギリスはかわいそうなんかではない、敬意を払えるほど虫生を謳歌して旅立っていったのだ。



そんなことを思いながら干からびたキリギリスを見ていると、目の前を羽虫が飛んでいった。
ここ数日の暖かさで羽化したのだろう。
羽虫を目で追い、ふたたびキリギリスを見る。
この偉大なキリギリスの亡骸は私が引き取ろう。
死と生が交差した瞬間、春の気配を感じる。
虫が活発になるシーズンも直ぐそこだ。
今日はこの辺で。


ギアでした。゜ω゜)ノ


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