見出し画像

ピクサーのお金の話が面白かった件

この本の著者は、作品に直に携わった監督やアニメーターというクリエイターではない。あくまでも1人の経営者として、ピクサーを如何にして大きくしようかと考えて来たローレンス・レビーというピクサーの最高財務責任者の話だ。

経営、お金、財務責任者と聞くと堅苦しい本なんじゃないかと抵抗を持つかもしれないが、この本は1人の人間がピクサーに心奪われ、この素晴らしい才能をどうやって世の中に出していくか日々奮闘した自伝になっている。

読んでいて思ったのは、どれだけ優れた作品を作っていても、それが必ずしも報われるとは限らないという事。

作品が仕上がったとしても、それを観る人がいなければ、収益は望めないし、会社だって長続きしない。本書は、世界初の3DCGアニメーション、トイストーリーを世の中に出すまでの背景にあった数々の奮闘がメインとなっている。

例えば、株を公開する事で、会社を存続する為の資金を得ようと考える。しかし当時、ピクサーのように3DCGを使ってアニメを作っていた会社などどこにもなかった。株を公開するまでに必要な資料を手に入れるのにも、必要な弁護士や役員を雇おうにも、誰も見た事も聞いたこともない3DCGアニメ映画に賛同しようとする人はいなかったのだ。

役員を雇う、銀行に信頼してもらう、収益の割合を折半してもらう(当時のピクサーはディズニーとの契約で収益の80~90%はディズニーに入る事になっていた)ピクサーというブランド価値を高めていく、どれもピクサーの存続には欠かせないものだった。

その1つ1つをディズニーの役員や、ハリウッドの事業に詳しい弁護士、銀行員、などの各所に事細かに説得、説明し、赤字だったピクサーを少しでも前に進めようとしていたのだ。

経営者の話であって、ピクサー作品の物語やキャラクター性といったクリエイティブな側面の話は殆ど出てこない。出てくるのはお金や、法律といった話ばかりなのだが、決して堅苦しくない。それどころか、「より良い案はないのか?」日夜考えを凝らすローレンスのピクサーに対する思い入れが言葉の節々から伝わってきた。作品を作るクリエイター達も当然一言で語れるほど軽々しいものはないが、経営というクリエイティブとは相反しそうな立場の人間が、これほどまでに素晴らしい作品や会社、その中で働くクリエイター達の為に情熱を持って仕事をしているんだなと驚いた。

そして素晴らしい作品を作ったクリエイター達だけでなく、ローレンスやピクサーのオーナーであったスティーブ・ジョブズ、他にもクリエイターではない人達の力も合わさって初めて、彼らの作った映画を観ることが出来るのだなと思った。

こういった制作秘話はクリエイター目線のものが多いと思っていたが、経営者の目線から書いたもので、ここまで感情豊かだとは思わなかった。作品が完成するまでも大変なのに、それ以外にも経営の場でもこれだけの出来事があるとなると益々制作に携わった人達に頭が上がらない。

ピクサーやディズニーが好きな人は勿論、普段はあまりピクサーの作品に触れないような人にもオススメしたい。寧ろ、ピクサーに関してあまり知らない人の方が、興味惹かれるものが多いかもしれない。






この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?