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村上春樹の隠れた名作?『国境の南、太陽の西』を読もう!

はじめに

こんにちは!がくよむライターのねもです。

この記事では、僕が村上春樹さんの作品の中でも特に【隠れた名作】だと思って推している中編小説『国境の南、太陽の西』をご紹介します!

2021年度の米国アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督の映画『ドライブ・マイ・カー』の原作小説の作者としても話題の村上春樹さん。この機会に彼の作品を手に取って読んでみよう、と思い立った方も少なくないのではないでしょうか。

氏の作品を愛読する所謂”村上主義者”の僕としては、せっかくですから代表作””以外””の作品も皆さんに読んでいただきたいという思いが非常に強くあります(我ながらめちゃくちゃ力が入っていますね笑)。

だって、村上さんの作品は名作揃いなんだもん……代表作とされる『ノルウェイの森』や『1Q84』といった長編ももちろん面白いのですが、個人的にはあまり話題に上がらない中編にこそ村上さん”らしさ”みたいなものがあるように思います。氏特有の文体の持つリズム感と文庫1冊300ページ前後の中編小説のボリューム感が程よくマッチしている、というのが僕の個人的な考えです。

そんな村上春樹さんの中編小説のなかでも僕が特にオススメしたいのが『国境の南、太陽の西』です。ぶっちゃけ、人気のある作品ではありません!でも読んでいただきたい理由がちゃんとあるんです!

『国境の~』のオススメポイント

この作品のおすすめポイントはいくつもあるのですが……

まず第一に、長さが程よい。文庫版1冊で299ページと、300ページを超えません。『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』、『ノルウェイの森』、『海辺のカフカ』等は上下巻に別れていますし、『ねじまき鳥クロニクル』は3巻、『1Q84』に至っては文庫版だと6巻にもわたります。村上さんの代表作はどれも長いんですよね……それに比べると、そこまで長くない文庫1冊で完結する本作は手を出しやすそうな感じがしますね。「短編だと物足りないけど、大長編はちょっと重たいなぁ」という方にはピッタリの作品だと思います。

また、村上春樹さんらしい一人称視点の文体音楽のモチーフが取り入れられているのもオススメポイントです。

村上春樹らしさ、というものを定義するのはなかなか難しいことですし、ご本人不在の場でこういうことを論じるのも非常におこがましいことですが……やっぱり村上作品といえば、主人公の人格と著者の人格と読み手の視点がダブって見えてくるような一人称視点だと僕は思います。きっと、デビュー作『風の歌を聴け』に連なる『1973年のピンボール』『羊をめぐる冒険』から成る「鼠三部作」が一人称で書かれており、そのイメージが強烈だからでしょうね。


音楽のモチーフというのも、村上作品では重大な要素になることが多いものです。村上さんはレコードの一大蒐集家で、音楽の知識が豊富なことで知られています。その音楽の知識をベースにして書かれた作品はどれも名作ですが、本作もジャズシンガー・ナットキングコールの『国境の南』という曲がモチーフになっており、御多分に漏れず。その曲調と歌詞と小説の物語が噛み合った瞬間、他では得られない感動に出会うことができるはずです。

ネタバレなしストーリー紹介

せっかくなので、軽~くストーリーを紹介させていただきます。

妻の実家の不動産資産を元手に、東京でバーを経営している主人公の始(ハジメ)。ビジネスも私生活も順調な彼の前に、ある日突然、初恋の人・島本さんが現れる。小学生時代の彼の淡い初恋が大人の恋愛に育っていくのか、あるいはそうはならないのか……もう二度と戻ってこない小学生時代の初恋が、ある日突然、実るかもしれない。そうなったら、あなたならどうしますか?

《初恋》と《大人の恋愛》を描いた、甘酸っぱくもほろ苦い、一粒で二度おいしい小説です。

村上春樹の小説は感情移入しづらいと言われることが多いような気がします。しかし、この小説はどことなく””近さ””を持った小説だと僕は思います。主人公と同じ境遇になったり、同じ経験をしたりすることは無いだろうけれども、「もし僕が彼と同じ選択を迫られたら、きっと僕も同じようにするだろう」と思わせるものがあるからです。

読み終えた後、自分の人生の過ぎ去った過去や、あり得たかもしれない可能性に思いをはせずにはいられません。セピア色の読後感を得られる名作です。

ちなみに、この作品はドイツでとある文学論争を巻き起こしたこともあるそうです。詳しくはここでは触れませんが、もしよかったら調べてみてください。

……ということで、この記事では村上春樹さんの隠れた(?)名作として『国境の南、太陽の西』を紹介させていただきました。村上作品最初の一冊として手に取るも良し、2冊目3冊目として読むも良し、久々の村上作品として読み返すも良しの傑作です。

みなさんも是非この作品を読んで、村上春樹さんの描く恋愛の世界に酔いしれましょう!

〈文/ねも〉

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