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学芸員の専門分野について考える

学芸員に専門分野なんぞない!

と言ったら驚かれるでしょうか。ちょっと言葉足らずですね。

学芸員は、専門分野だけにこだわっていたらもったいない!

という方がいいかもしれません。

なぜなら、自分の中で決めた専門分野も、大学および大学院で学んだたかだか数年間の蓄積であり、すぐに学芸員として働いている期間の方が長くなるからです。だから学生時代の専門にこだわりすぎず、必要に応じてあれこれ勉強しながら展覧会を企画した方が、学芸員としての幅が広がるし、何より楽しいですよ(言っちゃった)。

少し説明させてください。

美術館学芸員は研究職かと言われたら、調査・研究は、やっている仕事のごく一部でしかないので正直首をかしげますが、まぁ専門職ではあるかなと思います。思います、というか、学芸員資格というものもあるわけで、専門職であることは間違いないでしょう。

で、だいたいの学芸員は、大学や大学院で何かしらを研究対象として、卒論、修論、ひとによっては博論を書いた上で、学芸員になるわけです。当然ながら就職する時は、自分が大学で研究していた分野に近い、学芸員募集を探して応募します。

そんなわけで、学芸員は各自、自分の専門分野をひっさげて仕事をするわけですが、そこにどこまでこだわるかは人によって分かれます。

それは美術館の規模(学芸員の数、収蔵点数)によるところも大きいです。学芸員を豊富に揃える美術館は、シマ分けがしっかりしていて、分業体制ができあがっています。そういうところでは、自分の専門分野を掘り下げていくのも悪くありません。

またコレクション(収蔵品)に特徴がある場合、例えばある作家の一大コレクションがあるような場合は、そこで働くイコールその作家の顕彰がライフワークになるでしょう。

でも日本全国に数多ある美術館は、そこまで大規模なものばかりではありません。うちのような小さな美術館になるほど、学芸員の数は少なくなります。

そこで自分の専門分野のことしかできません、と言っていると、もったいないんじゃないかなぁと私は思うわけです。人が少ないということは、それだけ一人の学芸員に任されることが多くなります。フレキシブルになんでもやってやろうと思えば、展覧会の企画の自由度があがりますし、その度に勉強していけば自分のカバーできる領域が拡大していきます。

そうこうしているうちに、学生時代に学んでいた期間を超えていくわけで、自分の中で専門分野に固執する気持ちも薄くなっていきます。

と、ここまで書いて「あれ、それって器用貧乏てことか?」と思ったのですが、いやいや違うぞ、と。

ここで大事なのは、いろんな分野に興味をもって手を出しても、根っこの部分、自分の核となるものをしっかり持っておくことです。それが学生時代に毎日毎日そのことだけを考え続け、掘り下げていった、あの研究テーマでしょう。

これだけは日本で自分が一番徹底して研究したと思えることを核として、そこから枝葉をのばしていくイメージです。大丈夫。人間の表現活動であるという意味では、だいたいのことはどこかでつながりますから。

というわけで、学芸員はあまり専門分野を決めすぎず、なんでもやってみた方が楽しいよ、というお話でした。これ他の仕事でも同じじゃないかなぁ。

まぁ、そんな風に思えるのも、自分がもう十数年学芸員をつとめて、その期間が学生時代の研究期間を上回ったからなんですよね。それでも、誰かに伝えておきたくて書きました。何かの参考になれば。

本記事は【オンライン学芸員実習@note】に含まれています。


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