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事実、ワークライフバランスではたどりつけない場所がある

賛否両論ある話をします。

私は、働き方には2種類あると思っています。

  • 及第点をとれば良しとする働き方

  • 自分なりの満点を目指し続ける働き方

これはどんな仕事、どんな職業でも言えることだと思います。もちろん美術館で働く学芸員にもあてはまります。

一方で、すっかり定着した感のある言葉「ワークライフバランス」
仕事だけではなく、家庭、家族、趣味、総合的にみて豊かな人生を送りましょう、みたいな考え方です。

最初に挙げた2つの働き方のうち「及第点をとれば良しとする働き方」であれば、ワークライフバランスを実現することはさほど難しくありません。
仕事は定時でできる範囲できっちりやって、オフの時間は家庭や自分の趣味に時間を使えばいいのです。

しかし「自分なりの満点を目指し続ける働き方」を選ぶのであれば、ワークライフバランスの方はあきらめるしかありません。というか、ある種の高みを目指して働いている人の大半は、ワークライフバランスなんてどうでもいいと思うぐらい仕事に熱中している人ばかりです。

私の周りを見回しても、ただお給料をもらうためだけに学芸員をやっているという人はほとんどいません。結局みんな楽しいからやっているんですよね。

私もそうでした(←過去形なところに注目)。自分の展覧会を少しでも良いものにしたくて、毎日残業して仕事をしましたし、仕事が終わった後に母校の大学図書館に行って調べ物をしたり、他館の学芸員や院の研究生たちと集まって勉強会をしたり。休日も、美術館に行ったり、国会図書館に行ったり、論文執筆をしたり。やってもやらなくてももえらる給料はたいして変わりませんが、自分が納得できるところまで、うっすらと視界の先に見える高みまでたどり着きたくて、日夜そんな風に働いていました。

上司も先輩もそんな働き方でしたから、それが当然だと思っていたし、それぐらいやらないと職場で認められるレベルの仕事ができなかったのです。
自分なりに渾身の展覧会が開幕できた時はうれしかったし、納得いく美術史論文を書き上げて評価されるのも達成感がありました。

夢中になって己の時間をすべて美術に捧げ続ける学芸員を待っているのは

  • 美術館内外での高い評価

  • 業界での存在感

  • 大学からの講師依頼

  • 他館からの外部キュレーターとしての依頼

  • より重要なポストへのヘッドハンティング

  • 出版社からの原稿依頼

  • 講演依頼

などなどでしょう。私もその幾つかは経験しました。

見方を変えると、ワークライフバランスなんて気にもとめず、仕事にリソースのすべてを突っ込むからこそ、それだけの成果が上げられるのです。

独身ならそれも可能です。また家庭を持ってもパートナーがそれを許してくれるならいいでしょう。でも共働きだったら?子供がいたら?

そこで誰もが、もう一度突きつけられるのです。どちらの働き方を選ぶのか。

  • 及第点をとれば良しとする働き方

  • 自分なりの満点を目指し続ける働き方

どちらが正解というわけではありません。
満点を目指す働き方は、仕事を通して生半可では無い喜びを得ることができます。それは麻薬のようにくせになるほど甘美なものです。でもそれと引き換えに、子供の日々のわずかな成長に気づく喜び、家族の思い出に自分も一員として加わる幸せ、そういったものを諦めることでもあります。

ステレオタイプ、平凡と言われがちな幸せを捨てて、自己実現に邁進する生き方は、ある種の業を背負った生き方かもしれません。なぜなら、その選択は、自分ひとりではなく、家族からも選択肢を奪っているからです。

そんな構造が見えてしまったから、私はそれまでのような働き方はできなくなりました。妻だけに子育てを任せる気にはならなかったし、私も子育てをしたかったからです。

そんなこんながあって、私はいま小さな美術館で働いています。

決して手を抜いているわけではなく、館がどうすればよりよい方向に行くか考えていますが、以前のように、渇きを感じながら四六時中美術のことを考え、99%の完成度のものを限りなく100%まで近づけていくような貪欲な仕事の仕方はしなくなりました。

人生100年時代の指南書として話題となった『LIFE SHIFT』でも書かれていたように、人生にはステージがあると考えます。仕事にフルコミットするべき時期もあれば、仕事と家庭のバランスを考えるべき時期もあります。

私もいまの働き方が一生続くとは考えていません。また色々と仕事を通して大きなことをやりたくなる時期も来るでしょう。もしかしたら、その時すでに周回遅れの場所にいるかもしれません。でも大事なのは、その都度自分で選択をすることです。自分で選んだ結果の周回遅れであれば、誰のせいにすることもありません。パートナーや子供のせいにするなんて論外です。

甘んじて受け入れて、その巻き返しの策をねる気にもなるってもんです。
多様な働き方が日本でも広まってきました。楽しくしなやかにやっていきましょう!


バックナンバーはここで一覧できます(我ながら結構たくさん書いてるなぁ)。


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