どうせわかっちゃくれないんだろ

ぼくは今、”うつ”と戦っている。いや、もうほとんど治っているわけだけど、もしかしたら再発するかもしれない。誰かと話しているとき、何かを見たときに、ふとつらいことを思い出すかもしれない。

そんな気持ちをゆっくり風化させるように生きている。

流行り病で世の中が大混乱に陥る最中、ぼくは社会人生活をはじめた。上司も先輩も同期もいい人ばかりで、人間関係はかなりいいと思った。だけど仕事に関しては、どうもうまく行かなかった。

活字はうまく読めないし、成果のほとんどは間違いだらけで、まともに意思の疎通ができた試しはない。それでも先輩方は、ぼくを慰めてくれた。

「私も新人の頃はそうだったよ」

「まだ始めたばかりだし、これから学んでいこうよ」

「前よりもできるようになったじゃん」

温かい言葉をかけてくれたのは嬉しかった。だけどそれ以上に悲しかった。何もできない自分が許せなかった。

「会社ではミスなんて許されない」

「先輩の手を煩わせてはいけない」

「仕事に情を持ち込んではいけない」

そんな”思い込み”ばかりに支配されて、ある朝気がついたら身体が動かなくなった。目は覚めている。意識もはっきりしている。しかし身体が動いてくれない。「動きたくない」とサインを発している。

それから目の前の世界がおかしくなった。

手に力が入らない、急に全身が痺れだす、座っているのに心臓だけがバクバクしている、何を食べても味がしない、そんなことばかりだった。

そして会社から帰ってきたある日、急激な吐き気とともにトイレに駆け込んだ。

目の前は血飛沫だった。

それから意識が遠のいて、その先の記憶はほとんどない。思い出したくもない。




あれからもう9ヶ月も経った。身体はある程度もとに戻り、体調を崩すこともほとんどなくなった。それもこれも会社を辞めたおかげでもあるが、会社を辞めたせいで優しい人たちとの関係を断ち切ってしまった。

辞めたことが正しいことだったのかは今もわからないけど、あの瞬間において自分ができることは「すぐにでもあの場からいなくなること」だった。

人には恵まれていたけど、それを取り巻く環境がぼくにとってはあまりにも過酷だった。できることならもっと違う場所で、もっと違う立場で会えたらよかった。

今はそんな事を考えてもしょうがないので、死にたくならない程度に前を向いて生きようと思う。

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