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父、死にそう。【大西一郎『ある視点』第33回】

横浜市鶴見区・ファンタジーサウナ&スパおふろの国のリラクゼーションコーナー「ケアケア」店長・大西一郎がカウンターの中から繰り広げる視座の世界。

私は今忙しい。宿題が山積みだ。だけど何もしていない。やる気が起こらない。こんなにゆったりのんびりして、あれは明日やろう、あれはあさってにしよう、来週にしよう、月末にしよう、と永遠に後回しにしている。

後で困ることはわかっている。どんどん自分を追い詰めている。これはまさに、夏休みの宿題だ。私はもちろん、毎年毎年、8月31日に泣きながら宿題をしていた類の子供だった。かと言って、夏休みに何の後悔もないほど、思いっきり遊んだわけでもなく、毎日を無意味に、無気力に過ごした。

今、私は毎日何をしているかというと、スマホで、ビンに入った色付きの水を、あっちのビンにこっちのビンに移し替えて、同じ色の水を揃えるという地味なゲームを、ひたすらしている。

一体何が面白いのかと冷静に考えても、本気でわからないのだけれど、「NEXT LEVEL」という文字を見ると、無意識に押してまた、ひたすらビンの水をコポコポと移し替え続けている。

これをしている間は、何も考えなくて済むような気になる。現実逃避なのだろう。あとは、「吉原炎上」を見ている。何度も何度も、繰り返し見ている。セリフを暗記するほど見ている。一日中見ていられる。一日中見ている場合じゃないよ大西くん。

このままではだめだ!頭を切り替えなければ!と思ってサウナにも行く。私の仕事が終わってからも開いている一番近いバリ風サウナ、私はいつも在館60分コース。サッと入って帰る。これで気分転換をして、さあするべきことをしよう!と決心して、またスマホを開いてビンの水をコポコポ移し替え続けて朝が来る。

いくら現実逃避をしようとしても、宿題は常に頭を支配している。実際の行動は余裕たっぷりなのに、心には全く余裕がない。さっさとやれば良い。大きいのはこの月刊サウナの連載だ。一体今回は締切を何日過ぎただろう。しばらくは比較的(自分比)早めに提出していたのに。本気で書くことがない。

先月号はリラクゼーション特集で、ギリギリに鬼塚編集長達にああでもないこうでもないとダダをこねて困らせた。今その号はすでに私の手元にあり、表紙のくりりんが微笑んでいる。これがあるということは、本来とっくに次の号の記事を提出していなければいけないのだ。

短い優等生だった。

もう一つ私の心を大きく支配しているのは父のことだ。

どうやらもう長くない。

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