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【朗読】ティンカーベル

文月悠光
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ティンカーベル、勇気を抱いて。

 *

これを何と名づけようか。
ぬぐっても ぬぐっても
ぬぐいきれない熱が頬の上にあって
わたしから降りてくれないのだ、
妖精のつま先が乗っているみたいに。
ティンカーベル、勇気を抱いて。
かしこいあなたは
かしこいままで生きていてよい。

きょうの肌を溶かして素肌のわたしになる。
つい先ほど肌だったものが、今やとろけて
指先を金色にあたためる。
この熱は、わたし由来のもの?
それともあのひとがくれた温もり?
かがやく愛はどこからきて、どこへ降り立つのか。
きみもわたしも冬の終わりに折り重なって
わからないまま、夜の底に溶け落ちていく。
角砂糖をカップのひかりが飲み込むように。

泡のとびらを両の手にひろげて
わたしの顔はそこを深く潜ってひらいてゆく。
そのとき、顔を抱くような仕草に気づく。
知らないふりも 飛べないふりも
もう要らないから、その名を呼んで。
ティンカーベル、あなたは愛する。
わたしの眼球を濡らしているものが
きみの愛だよ。

詩「ティンカーベル」文月悠光


*「婦人之友」2021年2月号 ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍
写真:岩倉しおりさん

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