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【朗読】夜の心臓

文月悠光
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だからこんなにも あなたはきれいなのだと🌃

 *

左腕のあちこちに散ったほくろを
からだへ教えるように指で数えた。
ひとたび宇宙に飲まれたら
このほくろだけが光りはじめて
わたしは暗闇に溶けて流れていくのか。
その川は遠い街を彩るだろうか。

わたしがここにいることを
だれも知らない。
幼いわたしは、体育館の隅の
ネットにくるまり、息を潜めて
だれにも見つからない時間を惜しんだ。
いまは歩道橋の上、だれかに見つかりたくて
見下ろす街並みに、心臓の鼓動は熱かった。
夜の闇は、色に秩序を与えていく。
光またたく都市の血管を幾度も洗う。
だからこんなにも あなたはきれいなのだと
はるか下界、夜を急ぐ人々にも教えよう。

電車の自動ドアが閉まる瞬間
振り返ってしまうのは、
とても大事な何かを
ホームに置き去りにした気がするから。
この皮膚の下を血は流れて
街の地下を勢いよく電車が走り抜ける。
わたしたちを運ぶ夜の心臓が
パーッと高く鳴いて光を放った。
一瞬のかがやく花を散らして。

詩「夜の心臓」文月悠光


*「婦人之友」2020年11月号 ミヨシ石鹸さん広告より。
毎月、裏表紙広告欄に詩を書き下ろしています✍
写真:岩倉しおりさん

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