冬 佳彰

Amazon KDP、noteを中心に、時代小説、アクション、SF、ホラーなどジャンル…

冬 佳彰

Amazon KDP、noteを中心に、時代小説、アクション、SF、ホラーなどジャンル横断的に(自分が読みたい感じの)小説を自家生産中。スワム・ナーダ、伊澤圭のペンネームも使用。

マガジン

  • バックヤード

    創作や思考のための備忘録のマガジンです。

  • 冬佳彰 ショートショート

    冬佳彰のショートショートマガジンです。奇妙な味わいのショートショートを目指しています。

  • 蛇行対談

    俺たちが、かつて夜な夜な酒場で繰り広げた与太話を思い出しつつの仮想対談集。

  • PENTAX Q

    PENTAX Q10, Q7の再稼働記です。

最近の記事

バックヤード:山本周五郎『朝顔草紙』の不可解

 朗読系ポッドキャストで、山本周五郎の『朝顔草子』を聴き、ふむふむ良くまとまった綺麗な物語だなあ、と思っていたが、ふた晩経ってモヤモヤしてきた。どこか不可解なものがあるんだよなあ。  沼尾ひろ子さんに感謝します。  で、文庫本を再読し、不可解な点を整理してみた。  以下、俺が不可解だと思う点。初出は昭和13年の『講談倶楽部』。 なぜ実際に直諫し、暇を出された父の信右衛門本人ではなく、息子の信太郎が佞臣の殺害に向かわねばならないのか? 信太郎が、あっさりと父の指示に従った

    • 短編 『ポイント駆動の犬たち』

       店に入ると、その男はあたしに向かって小さく手をあげた。  つまりは顔バレしている。  あたしは彼の前に座った。 「極秘の相談が、ファミレス?」  駅の改札から直結したどこにでもあるファミレスだ。窓の下は青白く、帰宅を急ぐ人の流れがある。夏が近い。  彼は若かった。  あたしと同世代くらいだろうか? 総務省の中でも下っ端なんだろう。もしくはキャリアとか言う人種? 「予算が限られているんです。それに料亭という歳でもないでしょう、お互いに」  そう言うからには、奢りってことなんだ

      • バックヤード:修理という快楽

         数年前に買ったヘッドフォンのイヤーパッドがボロボロ崩壊してきた。ありがちだよね、あのふわふわした素材が崩れてくる状況って。しかし元々使用頻度も高くなく、バッテリー(充電式なので)も劣化していない製品である。  まあ、それほど高価な品でもないのだが、それでも「もったいない」ってことで、崩壊イヤーパッドの上に被せる品を探していたら、何のことはない、本製品用の交換イヤーパッドが千円程度で売っているのに気づき、ダメ元で購入してみた。  結果としては、マイナスドライバーを崩壊イヤーパ

        • バックヤード:フリーズ作品を再開、そして完成

           先に、『創作途中でフリーズ』という泣き言の記事を書いた小説を再開し、ここ数ヶ月でようやく完成に漕ぎ着けました。  いやー、長かった。自分にかけた呪いと化していた「主人公が巻き込まれる問題」を一旦捨て、最終的な地点のみを目指して問題の再検討、先に書いていた70枚分もほぼ捨て、書き直して95枚。  その前の記事で触れていた、別府に存在した占領軍キャンプのチッカマウガは主な舞台としては登場しなくなってしまいました。もちろん関係はしているんだけど、最初にあった、人物たちがキャン

        バックヤード:山本周五郎『朝顔草紙』の不可解

        マガジン

        • バックヤード
          14本
        • 冬佳彰 ショートショート
          16本
        • 蛇行対談
          32本
        • PENTAX Q
          6本

        記事

          バックヤード:仏製サメ映画『セーヌ川の水面の下に』を観る

           プロット勉強のために、ほとんどジャンルの絞りなく映画を観ていたりする。ダラダラネチョネチョした生理的に無理な映画(日本製の比率が高いのが悲しい)は5分程度で停止する。  昨日、Netflixの『セーヌ川の水面の下に』を観た。  「ヒャッハー系の人々がサメに食われる仏製映画ね。すぐ停めそうだな」と再生したが、何とか最後まで観た。で、その展開に驚いた。甲斐バンドは、「映画を観るならフランス映画さ」とか歌っていたが、さすがというか何というか、色々裏切られるフランス映画だった。

          バックヤード:仏製サメ映画『セーヌ川の水面の下に』を観る

          バックヤード:ラジオを聴いていた頃

           何だろうな、最近、昔の記憶がふとよみがえることが多い。年齢のせいなんだろうな。  で、今日は「ああ、俺ってラジオを結構聴いてたよな」と思い出した。おそらく高校受験の頃がピークで、赤い AIWAのトランジスタラジオで、他県の局までチューニングして、ひどい雑音越しに聴いていた記憶がある(何やってんだか)。  思いつくままリストアップしてみると、 淀川長治さん:「ラジオ名画劇場」 近田春夫さん:「オールナイトニッポン第2部」 つボイノリオさん:「オールナイトニッポン(第1

          バックヤード:ラジオを聴いていた頃

          蛇行対談:饒舌な「注意」の世界で

          対談人物(F:俺、A:安部ちゃん) F:君さあ、電車とか飛行機とかの「注意喚起」のアナウンスって好き? A:えー、好きも嫌いもないですね。普通に聞き流しているというか。 F:いつだったかなあ、飛行機の離陸待ちで、それもかなり遅れている状況で、ずーっと同じアナウンスを繰り返しているのに気づいた時、プチってなりかけたな。「一度言えば分かるんだよ。一回、切っとけ!」って感じで。 A:良く言われる音の公害ですよね。 F:まあ、音だけじゃないんよね、たとえば公園とか公共施設と

          蛇行対談:饒舌な「注意」の世界で

          こちらの世界で縦軸と横軸に分離されていることが、「あちら」の世界、空間-無時間の世界においては、多くの側面をもった原始心像として、多分、ひとつの元型を囲む漠然とした認知の雲のような集まりとして見られるかもしれない。(『ユング自伝』 死後の生命)

          こちらの世界で縦軸と横軸に分離されていることが、「あちら」の世界、空間-無時間の世界においては、多くの側面をもった原始心像として、多分、ひとつの元型を囲む漠然とした認知の雲のような集まりとして見られるかもしれない。(『ユング自伝』 死後の生命)

          ショートショート 『セイレーンの泣く街』

           古びたシビックのイグニッションをまわすと、エンジンは老人めいた音で咳き込み、すぐに停まった。  エミリー・ハーパーは小さく舌打ちをして、もう一度キーをひねった。  いかにも気が乗らないといった音を五回させた後、シビックはようやく震動しはじめた。 「頑張って、その調子よ」  エミリーは言い、車のエンジンが安定するのを待ちながら外を見た。  フロントグラスの向こうは、この季節特有の霧の朝だ。  モリーンズビーチの湾から立ち昇った霧が丘の斜面を伝い、高台に建つエミリーの家まで呑み

          ショートショート 『セイレーンの泣く街』

          バックヤード:『僕たちのいない海で』を公開しました

           noteで公開していた以下の5編を、短編集としてまとめ、 Amazon Kindleで公開しました。(noteからは削除済み) 僕たちのいない海で 永遠のコスト わたしたちの模様 狩られる さらば、肉の日々  まあ noteでは原則無料で公開していて、KDPでは低価格での販売およびKENPCなので、どちらのサービス(?)に置いた方が「誰かの目に触れる機会」が多いか否かは一概には言えない感じなんですよね。これで食っているわけじゃあないけれど、最近耳にするクラウド農

          バックヤード:『僕たちのいない海で』を公開しました

          時代掌編 『さみだれ佐平』

           ………どんな小さなものにも命って奴はある。  深川は冬木町の暗がりで、佐平は考えていた。蛙が鳴く。夜の空から落ちてきた雨粒がつま先を濡らす。  大した話は、佐平の頭からは出てこない。昔、近くに住んでいた坊主が言っていた。犬だろうと鼠だろうと、蟻だろうと、どんなものにも命って奴は宿っている。いや、その辺に転がっている石にだって命の種子は眠っていると。  夜鷹を買い、博奕をする坊主だったが、説教だけは一人前だった。  家の中、お咲の小さな叫びが聞こえた。  佐平は両手で耳をふさ

          時代掌編 『さみだれ佐平』

          ショートショート 『不眠者の見る夢』

           地下9階、区画215に由子は眠っている。  深夜3時、僕は仮眠室を出て廊下を渡り、エレベーターに乗った。  どうせ眠ることはできないのだ。ベッドに横たわりウトウトしても、一時間もすれば目が覚めてしまう。  もう苦しんだりはしない。  僕たち不眠者は眠りを必要としていない。眠るのが普通だと考えるから苦しむ。今は普通の時代じゃあない。長い眠りを必要とする多くの人たちと、僕のように眠らないで済む少数派に分かれているのだ。  残念なのは、由子が睡眠者だということだ。  だから僕は眠

          ショートショート 『不眠者の見る夢』

          ショートショート 『彼の食卓』

          「確かに、あの記事は舌足らずだったと思っている」  亀本は言った。「暇を持て余す奴らが切り取って面白おかしく騒ぎ立てるには格好の言葉も含んでいた」 「先生の作家としてのご高名もあってのことですね」  早乙女は如才なく微笑んだ。「このインタビューでは、その説明不足だった部分を補足するお手伝いをさせていただきたいと考えています」 「スポンサーからもきちんと説明するように言われているよ。僕も人気商売ではあるしね。ただ文章だけで食っていけるほどの原稿料をもらっているわけではない。あそ

          ショートショート 『彼の食卓』

          モデルの再現から降りることが、センスの目覚めである。『センスの哲学』

          モデルの再現から降りることが、センスの目覚めである。『センスの哲学』

          「惰性・慣性の力」と対峙するために、我々はまず「神話の解釈」という観点を意識すべきではないか。持続不可能なシステム、そこから撤退すべきシステムを持続させようとするとき、政治家たちは「神話」を語りはじめるからである。「皇軍不敗」「原発安全」「百年安心」………『撤退学宣言』より

          「惰性・慣性の力」と対峙するために、我々はまず「神話の解釈」という観点を意識すべきではないか。持続不可能なシステム、そこから撤退すべきシステムを持続させようとするとき、政治家たちは「神話」を語りはじめるからである。「皇軍不敗」「原発安全」「百年安心」………『撤退学宣言』より

          ショートショート 『戦線離脱』

           塹壕の中は湿っていた。  ショベルで掘る時に千切ったのだろう、土壁の中、何かの幼虫の片端が白くうごめいていた。 「何だ、それ?」  同期の男が僕の手元を覗いて聞いた。ここ二週間、我々はシャワーを使えていない。彼の酸いような体臭が匂った。 「今朝、支部から届いていたんだ」  僕はごわついた粗末な封筒の口を破った。逆さにして中身を出す。  薄暗い穴の底でも、収められていた書類の色は分かった。 「おい、それって?」 「ああ」  僕はうなずいた。「青紙だ」 「………ラッキーだな」

          ショートショート 『戦線離脱』