冬 佳彰

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冬 佳彰

Amazon KDP、noteを中心に、時代小説、アクション、SF、ホラーなどジャンル横断的に(自分が読みたい感じの)小説を自家生産中。スワム・ナーダ、伊澤圭、相川錠のペンネームも使用。

マガジン

  • 冬佳彰 ショートショート

    冬佳彰のショートショートマガジンです。奇妙な味わいのショートショートを目指しています。

  • バックヤード

    創作や思考のための備忘録のマガジンです。

  • 蛇行対談

    俺たちが、かつて夜な夜な酒場で繰り広げた与太話を思い出しつつの仮想対談集。

  • PENTAX Q

    PENTAX Q10, Q7の再稼働記です。

最近の記事

モデルの再現から降りることが、センスの目覚めである。『センスの哲学』

    • 「惰性・慣性の力」と対峙するために、我々はまず「神話の解釈」という観点を意識すべきではないか。持続不可能なシステム、そこから撤退すべきシステムを持続させようとするとき、政治家たちは「神話」を語りはじめるからである。「皇軍不敗」「原発安全」「百年安心」………『撤退学宣言』より

      • ショートショート 『戦線離脱』

         塹壕の中は湿っていた。  ショベルで掘る時に千切ったのだろう、土壁の中、何かの幼虫の片端が白くうごめいていた。 「何だ、それ?」  同期の男が僕の手元を覗いて聞いた。ここ二週間、我々はシャワーを使えていない。彼の酸いような体臭が匂った。 「今朝、支部から届いていたんだ」  僕はごわついた粗末な封筒の口を破った。逆さにして中身を出す。  薄暗い穴の底でも、収められていた書類の色は分かった。 「おい、それって?」 「ああ」  僕はうなずいた。「青紙だ」 「………ラッキーだな」

        • バックヤード:創作途中でフリーズ

          先に、以下で検討中だった話、某公募を念頭に400字詰めで70枚まで書き進めた。 で、途中で嫌な予感はしていたのだが、「これ、100枚に収まらなくないか? 加えて、話の流れが不自然、人物の行動原理が一貫していないんじゃない? 主人公からストーリーが離れすぎ」と、自分の心の声が大きくなってきた。 「しかし、一度、終わらせることが必要だな」と構成を見直したり、人物の背景を再検討したり、語る手法を変えたりと頑張ってきたが、どーしても無理があるという結論に至り、一旦、フリーズすること

        モデルの再現から降りることが、センスの目覚めである。『センスの哲学』

        • 「惰性・慣性の力」と対峙するために、我々はまず「神話の解釈」という観点を意識すべきではないか。持続不可能なシステム、そこから撤退すべきシステムを持続させようとするとき、政治家たちは「神話」を語りはじめるからである。「皇軍不敗」「原発安全」「百年安心」………『撤退学宣言』より

        • ショートショート 『戦線離脱』

        • バックヤード:創作途中でフリーズ

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        • 冬佳彰 ショートショート
          31本
        • バックヤード
          8本
        • 蛇行対談
          31本
        • PENTAX Q
          6本

        記事

          ショートショート 『戦場のピノッキオ』

           焦げた臭いが大気に充満していた。火薬と、何かが腐敗している臭いがそれに混じっている。  メインストリートは瓦礫に埋もれていた。 「これ以上は、車じゃあ無理です」  運転手がルームミラーごしに言った。「あと500メートルってところですが………」 「後は歩きで行くよ。ありがとう」  僕は言い、バッグパックを肩にPKFのジープを降りた。 「破壊されています」  後から車を降りたEVE、通称ピノッキオが言った。 「分かっている」  僕はピノッキオの言葉をさえぎった。「僕にも目はある

          ショートショート 『戦場のピノッキオ』

          生体による世界のシミュレーションが高度に複雑化し、それ(生体)自体のモデルをその世界に組み込まなければならなくなったときに意識が出現するようだ。(中略)つまり遺伝子の指令に依存しないで何らかのことをやる、またあえて政府の命令に抗して立ち上がることになる。『生命潮流』

          生体による世界のシミュレーションが高度に複雑化し、それ(生体)自体のモデルをその世界に組み込まなければならなくなったときに意識が出現するようだ。(中略)つまり遺伝子の指令に依存しないで何らかのことをやる、またあえて政府の命令に抗して立ち上がることになる。『生命潮流』

          来世! 浄土! 救い! そんなものはきやしない 最初から神々は 人間など 愛していなかった ベータ型開発とは 破壊と消滅にいたる 開発のこと だったのだ!『百億の昼と千億の夜』

          来世! 浄土! 救い! そんなものはきやしない 最初から神々は 人間など 愛していなかった ベータ型開発とは 破壊と消滅にいたる 開発のこと だったのだ!『百億の昼と千億の夜』

          (承前)いまの日本のメディアは「両論併記」の花盛りです。歴史的検証に耐えた学術的な主張と、実証的な吟味に耐えない資料や思いつきがあたかも等権利的な学説であるかのように併記されている。『街場の米中論』

          (承前)いまの日本のメディアは「両論併記」の花盛りです。歴史的検証に耐えた学術的な主張と、実証的な吟味に耐えない資料や思いつきがあたかも等権利的な学説であるかのように併記されている。『街場の米中論』

          SF短編 『ペルソナ・ノン・グラータ』

           灼熱の夏だった。  僕はある都市の、比較的名前の知られた美大の学生だった。  ただし大学には、ほとんど行ってなかった。  早晩、僕の足元に暗い穴を開けるだろう破局の予感はあった。  中学からの知り合いで、同じ大学の産業デザイン科に通う斉藤は、一旦、休学したほうが良いと忠告してくれた。  それでも僕は、指一本動かせなかった。  僕は子供の頃から絵を描くのが好きだった。上手いという自負もあった。  高校に入った直後、僕は美大を目指すと両親に宣言した。一般の教科は塾で頑張り、デッ

          SF短編 『ペルソナ・ノン・グラータ』

          技術は、それ自身に固有の偏向が内部に隠されているにもかかわらず、中立的だと信じられています。技術の誘導によって人間が何らかの良くない行動をとってしまっても、それは人間の奥深くにある邪悪な部分のせいになります。『デジタル生存競争:誰が生き残るのか』

          技術は、それ自身に固有の偏向が内部に隠されているにもかかわらず、中立的だと信じられています。技術の誘導によって人間が何らかの良くない行動をとってしまっても、それは人間の奥深くにある邪悪な部分のせいになります。『デジタル生存競争:誰が生き残るのか』

          「表現された現実」の方がわれわれにとってはなじみ深く、現実そのものよりもはるかに扱いやすいからである。われわれは時としてそれをもっとも心地よい衣としてまとうことになる。そのために、このふたつはとかく混同されがちだ。神話や象徴を現実そのものと取り違えてしまうのである。『生命潮流』

          「表現された現実」の方がわれわれにとってはなじみ深く、現実そのものよりもはるかに扱いやすいからである。われわれは時としてそれをもっとも心地よい衣としてまとうことになる。そのために、このふたつはとかく混同されがちだ。神話や象徴を現実そのものと取り違えてしまうのである。『生命潮流』

          ショートショート 『招く猫』

           その客が来たのは、午後の八時近くだった。  書生の速水が来客を告げ、彼は客を庭に面した応接間に通させた。  客の名刺には、「田中一郎」とのみ記されていた。所属も肩書きもない、名前だけだ。  彼は書斎の椅子にもたれかかり、  ………こんな夜更けに、初対面の男が何の用だと言うのか?  首をひねった。  彼も書生もすべての用事を終え、各々の居室ですごしている時刻だった。  ………いっそ、明日出直すよう、速水に言わせれば良かったか。  彼はそんなことを思いすらした。  突然の夜中の

          ショートショート 『招く猫』

          ショートショート 『家婆 IE-BABA』

          「そんなこと必要?」  優子は言った。 「君だって嫌じゃないか? その、居もしない老人が………」 「ミヤコさん。きちんと名前を呼んで」  悟はため息をついた。  大学生にもなれば、機械のアシスタントの名前を呼ぶ、呼ばないなど意味を持たないことくらい理解しているはずなのだが。 「お父さんは好きじゃない。この家の中に、存在しないはずの誰かがいるみたいに生活するのは」 「存在すると思えば良いでしょう?」  優子は栗色のショートカットをかき上げた。「呼べば答えるし、冷蔵庫の中で少なく

          ショートショート 『家婆 IE-BABA』

          ショートショート 『深夜の交番』

           その男が来たのは、深夜近い時刻だった。  酒井巡査はちょうどトイレに入っていたところだった。手を洗いドアを開けると、デスクの前のパイプ椅子に男が座っていた。 「お待たせしました。どうかしましたか?」  酒井は聞いた。  寒さが厳しくなってきた頃で、男は厚手のコートを着ていた。荷物は薄いブリーフケースのみだ。  駅から離れた場所にあるこの交番は、夜になると訪れる者が一気に減る。  きちんとネクタイを締め髪を整えた40代くらいの男は、先の坂をのぼったところにある団地の住人のよう

          ショートショート 『深夜の交番』

          バックヤード:『ゾンビ伊東』を公開しました

           noteで公開していた以下の5編を、短編集としてまとめ、 Amazon Kindleで公開しました。 最後の飛行隊 ゾンビ伊東 だから宇宙戦争 夜を、コヨーテと イカ裁判  今後も、ある程度の期間が過ぎたものから順番に短編集に移していく予定です。よって該当作は、noteからは削除しています。こういうのを自転車操業と言うのか、言わないのか………。  公開に際して語彙や会話など文章の手直しは行っているんですが、やり始めるとキリがない世界に突入するんですよね。自分で

          バックヤード:『ゾンビ伊東』を公開しました

          バックヤード:『紅の闇』を公開しました

           ここのところ、Amazon Kindleでの公開を頑張っています。本日、『紅の闇』という中編を公開しました。note利用者の層とは重ならない部分があるかもしれませんが、時代小説です。  それも王道(?)の、定町廻り同心を主人公に、商家を襲って皆殺しにした挙げ句に金を奪う夜盗を追うという話です。もちろん物語なんで、時代考証的な制度を脇に置いている部分もアリですね。  ある種のノワール小説を目指したため、まあスルッと勧善懲悪とは行かない話になっています。そこが売りでもあるの

          バックヤード:『紅の闇』を公開しました