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冬佳彰 ショートショート

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冬佳彰のショートショートマガジンです。奇妙な味わいのショートショートを目指しています。
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記事一覧

ショートショート 『不眠者の見る夢』

 地下9階、区画215に由子は眠っている。  深夜3時、僕は仮眠室を出て廊下を渡り、エレベータ…

冬 佳彰
2日前
7

ショートショート 『彼の食卓』

「確かに、あの記事は舌足らずだったと思っている」  亀本は言った。「暇を持て余す奴らが切…

冬 佳彰
11日前
7

ショートショート 『戦線離脱』

 塹壕の中は湿っていた。  ショベルで掘る時に千切ったのだろう、土壁の中、何かの幼虫の片…

冬 佳彰
3週間前
11

ショートショート 『戦場のピノッキオ』

 焦げた臭いが大気に充満していた。火薬と、何かが腐敗している臭いがそれに混じっている。 …

冬 佳彰
1か月前
13

SF短編 『ペルソナ・ノン・グラータ』

 灼熱の夏だった。  僕はある都市の、比較的名前の知られた美大の学生だった。  ただし大学…

冬 佳彰
2か月前
12

ショートショート 『招く猫』

 その客が来たのは、午後の八時近くだった。  書生の速水が来客を告げ、彼は客を庭に面した…

冬 佳彰
3か月前
14

ショートショート 『家婆 IE-BABA』

「そんなこと必要?」  優子は言った。 「君だって嫌じゃないか? その、居もしない老人が………」 「ミヤコさん。きちんと名前を呼んで」  悟はため息をついた。  大学生にもなれば、機械のアシスタントの名前を呼ぶ、呼ばないなど意味を持たないことくらい理解しているはずなのだが。 「お父さんは好きじゃない。この家の中に、存在しないはずの誰かがいるみたいに生活するのは」 「存在すると思えば良いでしょう?」  優子は栗色のショートカットをかき上げた。「呼べば答えるし、冷蔵庫の中で少なく

ショートショート 『深夜の交番』

 その男が来たのは、深夜近い時刻だった。  酒井巡査はちょうどトイレに入っていたところだ…

冬 佳彰
4か月前
14

ショートショート 『'Round Midnight』

 ヨッちゃんが川に浮かんだのは、2日前の朝だった。  川と言っても、ドブに毛が生えた程度…

冬 佳彰
5か月前
7

ショートショート 『夏おじ』

 車のエンジンをとめると、雑木林を抜ける風の音だけが耳についた。  僕は枯れ葉の積もった…

冬 佳彰
6か月前
11

ショートショート 『11時の夜汽車』

 カーテンを細く開くと、オレンジ色の街灯の下、町は眠りにつこうとしていた。舗道に人の姿は…

冬 佳彰
6か月前
8

ショートショート 『祭りの夜』

 ずっと団地が嫌いだった。  父の仕事の関係で、僕は二年程度のスパンで幾つもの団地を住み…

冬 佳彰
6か月前
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ショートショート 『邪魔者』

 スコープの中、岡島がこちらを見た。  気づいているわけではない。窓の外に広がる夜の街を…

冬 佳彰
6か月前
8

ショートショート 『偶然の罠』

 ミケが鳴いた。  閉めていたはずの研究室のドアをまだら模様の額で押し開け、私を見あげた。金の海に浮かんだ瞳孔がジジと膨らみ、そして細くなる。監視カメラの焦点が動くように。 「何もしない」  私は言った。 「今はまだ」  ミケに言ったのではない。  私だって猫に話しかけるほど暇ではない。ミケを通して私を見張っている監視者に言ったのだ。  彼らに気づいたのは、このシミュレーション世界のほころびを探していた時だ。  計算上、我々人類がシミュレーション世界のバグ、いわゆるボイドを