マガジンのカバー画像

冬佳彰 ショートショート

16
冬佳彰のショートショートマガジンです。奇妙な味わいのショートショートを目指しています。
運営しているクリエイター

記事一覧

短編 『ポイント駆動の犬たち』

 店に入ると、その男はあたしに向かって小さく手をあげた。  つまりは顔バレしている。  あ…

冬 佳彰
3週間前
9

ショートショート 『セイレーンの泣く街』

 古びたシビックのイグニッションをまわすと、エンジンは老人めいた音で咳き込み、すぐに停ま…

冬 佳彰
2か月前
12

時代掌編 『さみだれ佐平』

 ………どんな小さなものにも命って奴はある。  深川は冬木町の暗がりで、佐平は考えていた…

冬 佳彰
2か月前
6

ショートショート 『不眠者の見る夢』

 地下9階、区画215に由子は眠っている。  深夜3時、僕は仮眠室を出て廊下を渡り、エレベータ…

冬 佳彰
2か月前
10

ショートショート 『彼の食卓』

「確かに、あの記事は舌足らずだったと思っている」  亀本は言った。「暇を持て余す奴らが切…

冬 佳彰
3か月前
7

ショートショート 『戦線離脱』

 塹壕の中は湿っていた。  ショベルで掘る時に千切ったのだろう、土壁の中、何かの幼虫の片…

冬 佳彰
3か月前
10

ショートショート 『戦場のピノッキオ』

 焦げた臭いが大気に充満していた。火薬と、何かが腐敗している臭いがそれに混じっている。  メインストリートは瓦礫に埋もれていた。 「これ以上は、車じゃあ無理です」  運転手がルームミラーごしに言った。「あと500メートルってところですが………」 「後は歩きで行くよ。ありがとう」  僕は言い、バッグパックを肩にPKFのジープを降りた。 「破壊されています」  後から車を降りたEVE、通称ピノッキオが言った。 「分かっている」  僕はピノッキオの言葉をさえぎった。「僕にも目はある

ショートショート 『家婆 IE-BABA』

「そんなこと必要?」  優子は言った。 「君だって嫌じゃないか? その、居もしない老人が……

冬 佳彰
7か月前
17

ショートショート 『深夜の交番』

 その男が来たのは、深夜近い時刻だった。  酒井巡査はちょうどトイレに入っていたところだ…

冬 佳彰
7か月前
13

ショートショート 『'Round Midnight』

 ヨッちゃんが川に浮かんだのは、2日前の朝だった。  川と言っても、ドブに毛が生えた程度…

冬 佳彰
8か月前
7

ショートショート 『11時の夜汽車』

 カーテンを細く開くと、オレンジ色の街灯の下、町は眠りにつこうとしていた。舗道に人の姿は…

冬 佳彰
9か月前
8

ショートショート 『祭りの夜』

 ずっと団地が嫌いだった。  父の仕事の関係で、僕は二年程度のスパンで幾つもの団地を住み…

冬 佳彰
9か月前
13

ショートショート&イラスト 『あなたたちのいない惑星』

202X年………。

冬 佳彰
10か月前
3

ショートショート 『ある濁り』

2023/3/22 午後の会議中。菜子から電話。自殺すると言う。俺の部屋、バスタブの中にいるとのこと。 会議中につき、一時間ほど待てと、切る。 3度目。相手にするのが億劫。そのまま忘れる。 間違い。 マンションに戻る。バスタブで菜子が気絶。救急車を呼ぶ。深夜近くまで、警察の聞き取り。 疲れた。 2023/3/23 休暇届けを出す。 菜子の意識が戻る。田舎から兄夫婦が来て、世話。 一緒に暮らすのをやめたのは、9ヶ月前。合鍵も勝手に作られたと警察に話す。菜子の自傷行為についても